「子育て世帯のほぼ半数が十分な食料を買えなくなった」

急激な物価上昇は、経済的に弱い立場にある人たちに深刻な影響を及ぼしている。アドボケート紙は、「肉を買うのに(住宅ローンに次ぐ)2つ目のローンがいるくらいですよ」と窮状を訴える高齢者の声を報じた。

コロナ禍の支援策が終了したことも、家計へのさらなる打撃となった。

バイデン政権は子育て世帯を対象に大幅な税額控除を設定した。しかしこの措置は、2021年12月で終了している。米CNBCは、「子供税額控除の終了から5カ月が経ち、子育て世帯のほぼ半数が十分な食料を買えなくなった」と報じている。

子供2人を育てるあるシングルマザーは、以前であれば月あたり計500ドルの支援を受け取っていた。給付終了に物価上昇が追い討ちをかけるいま、鶏肉や新鮮な野菜などを買い物かごに入れる機会はめっきり減ったという。いまでは自分の食事を抜き、限られた食材をできる限り子供たちに与えているという。

スーパーマーケットで買い物をする女性のかごの中身は少ない
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スーパー店長「これまでで最悪のインフレ」

生活に欠かせない商品ほど値上がりの傾向が大きく、牛肉、豚肉、鶏肉、卵、牛乳、そして食用油などで上げ幅は顕著だ。大手安売りスーパーの店長を務める男性はアドボケート紙に、現在のインフレは「生まれてからこれまでで目にしたなかでも最悪です」と語る。

以前であれば消費者は、商品棚を巡りながら気の向くままに趣向品をカゴに入れることが多かったという。業界で「インクリメンタル・バイイング(だんだんと増える購入)」と呼ばれている行動であり、客単価向上の重要な要素だ。

しかし、最近ではこうした行動が店内でみられなくなったという。棚を入念に巡っている客がいるとすれば、それは少しでも安い商品を入念に比較している客なのだ。

店側としても、価格を維持し買い物客を引きつけるため、仕入れ価格の値上がりの一部を負担している。だが、別の大手チェーンによると、小売業界の平均利益率はすでに2%を切っているという。

さらに、商品によっては毎週のように値上げされているため、店内の値札を変えて回るだけでもフルタイムに近い人手が必要となってきている。値上げによる客離れのリスクが迫るなか、本来無用な人件費も発生している手痛い状態だ。

「悪いインフレ」による景気後退のリスク

冒頭で紹介したTikTok動画は、生活を脅かすインフレを笑いに変えようという試みだったのだろう。ガソリン高に苦しむ多くの人々の共感を得て拡散された。しかし、現状では笑えないレベルにまでインフレが進んでいる。