スイスの異例の利上げで、日本円は取り残された

各国でインフレが加速している。米FRB(連邦準備制度理事会)に加えて、利上げに慎重だったECB(欧州中銀)も7月の理事会で利上げに踏み切る。加えて、日銀と共にハト派として知られるスイス国立銀行(SNB)までもが、6月16日の会合で予想外の利上げを断行、主要中銀では日銀だけが利上げに消極的な姿勢が浮き彫りとなった。

具体的にSNBは6月の会合で政策金利を0.5%ポイント引き上げ、年▲0.25%にすると決定した。SNBによる利上げは実に15年ぶりのことである。このSNBによる予想外の利上げを受けてスイスの通貨フランが急騰、16日には1ドル=0.99フランから一気に0.96フランまで相場が上昇した。

SNBが予想外の利上げに着手した最大の理由は、やはりインフレの加速にある。

金融政策決定会合後の記者会見に臨む日本銀行の黒田東彦総裁=2022年6月17日、東京・日本橋本石町の日銀本店[代表撮影]
写真=時事通信フォト
金融政策決定会合後の記者会見に臨む日本銀行の黒田東彦総裁=2022年6月17日、東京・日本橋本石町の日銀本店[代表撮影]

スイスの最新5月の消費者物価は前年比2.7%上昇と5カ月連続で伸びが加速、SNBのインフレ目標(2%)も3カ月連続で上回る。SNBは6月会合後に発表した声明で、物価の動向次第では9月の会合で追加利上げを行う可能性を示唆している。

対ドルで通貨安が進んだことも、SNBが利上げを行う理由になった。米FRBによる度重なる利上げを受けて、年明けから6月15日時点までのフランの対ドル相場は8.2%下落していた。一方でフランの対ユーロ相場は、ユーロもまた米ドルに対して売られていたことから、年明けからほとんど変わらなかった。

【図表】フランの対ドル相場

そもそもSNBが2015年1月に政策金利を▲0.75%まで引き下げ、強力なマイナス金利政策を採った背景には、当時進んでいたフラン高への警戒感があった。SNBはこの間、フラン売り介入も適宜行ってきたが、年明け以降フラン安が進んだことを受けてフラン高への警戒感も弱まり、今回の利上げにつながった。

インフレ対策に本腰…ヨーロッパで解除が進むマイナス金利

SNBの政策金利はまだマイナス圏(▲0.25%)にあるが、9月の会合で追加利上げが行われれば、マイナス金利政策は解除されることになる。すでにヨーロッパでは、スウェーデン中央銀行(リクスバンク)が2019年12月にマイナス金利を解消、ECBも9月の理事会までにマイナス金利を解消する見込みである。

デンマーク国立銀行(DNB)もマイナス金利政策(▲0.6%)を採用している。デンマークの通貨クローネはユーロとの間で上下2.25%の固定相場制度を敷いているため、ECBが利上げをすればDNBも利上げをせざるを得ない。そのためDNBもECBの9月の会合の前後で、マイナス金利の解除を模索するのではないか。