そもそもマイナス金利政策は、デフレが意識される局面で採用された非伝統的な金融緩和手段である。マイナス金利政策が本当に景気浮揚や物価安定の効果を持ったかどうかについては依然として議論の余地がある一方で、インフレが急激に加速している現状では、解除が検討されて然るべき政策であることには間違いはない。
いずれにせよ、ヨーロッパ各国の中銀が解除に向けた動きを進める中で、ハト派として知られるSNBもまたマイナス金利を解除する動きに合流するかたちとなったわけだ。
ウクライナ危機の影響が色濃いヨーロッパでは物価高が当面は続くと考えられることもあり、マイナス金利政策が再び日の目を見るまでには、相当の時間がかかるかもしれない。
スイス中銀が異例の利上げに踏み切った事情
SNBは0.5%ポイントの大幅利上げを行ったとはいえ、政策金利はまだマイナス圏にある。9月の会合でマイナス金利は解除されるはずだが、その後もSNBがハイペースで追加利上げを行う可能性は低いと考えられる。SNBはECBを見据えて追加利上げを行うが、ECBの利上げペースがFRBよりも緩やかと考えられるためだ。
ユーロ圏の中にイタリアやギリシャといった重債務国を抱えている以上、ECBは追加利上げには慎重とならざるを得ない。追加利上げをハイペースで行えば重債務国の金利負担が増し、それが金融市場の不安定要因となるためである。フランが独歩高になることを防ぐためにも、SNBだけが利上げを進めるとも考えにくい。
こうして整理すると、SNBは確かに政策の方向性を転じたとはいえ、引き締めを急速に進めるとは言えない。にもかかわらずフランが反発した理由として、いわゆる「キャリー取引」の巻き戻しが生じたという説明は説得力を持つ。キャリー取引とは、低金利通貨で借入をして高金利通貨の資産で運用する取引のことだ。
このキャリー取引において、フランは売却の対象だった。しかしSNBが利上げに転じたことでキャリー取引の巻き戻しが生じ、フラン相場が反発したというわけだ。もともと「金よりも堅い」と言われるほど高い信用力を持つフランであるため、SNBの今回の利上げはキャリー取引の巻き戻しを呼ぶのには十分だったのかもしれない。
利上げを拒む日銀…大規模緩和で円安は止まらない
一方で、マイナス金利を解除する展望が描けないのが日銀である。
日銀は2016年1月に金融機関が保有する日本銀行当座預金の一部に▲0.1%のマイナス金利を適用、現在までこれを維持している。日本でも4月の消費者物価が前年比2.5%上昇とインフレは着実に加速しているが、日銀は利上げという選択を排除し続ける。
とはいえ、金融市場では日銀が政策修正に乗り出す可能性を探るような動きが相次いでいる。SNBが利上げをした6月16日から翌17日の相場で、ドル円レートはフラン相場と歩調を合わせて円高が進み、134円台から131円台半ばまで急騰した。しかし日銀が17日の会合で大規模緩和の維持を決めると、再び円安に振れた。