なぜ、黒田東彦日銀総裁は「家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言してしまったのか。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「セオリーでいえば金融を引き締めるため金利を少しでも上昇させる必要のある時期ですが、やりたくてもそれができないのです。国債を大量に買い込んだアベノミクスのツケがここにきて大きく日銀や日本経済にのしかかっています」という――。
黒田日銀総裁が“失言”しなければならなかった理由
「家計の値上げ許容度も高まってきている」
黒田東彦日銀総裁は6月上旬にした発言で世間から大きな批判を受け、「表現が適切でなかった」と撤回する事態に陥り「家計が自主的に値上げを受け入れているという趣旨ではなかった。誤解を招く表現で申し訳ない」と陳謝しました。しかし、一度口に出したことは記録に残ります。それに、黒田総裁がこうした発言を国民に向けてせざるを得なくなったのも事実です。その背景には日銀のバランスシートがありました。
膨れ上がった日銀の資産
図表1は、2022年3月末の日銀のバランスシート(貸借対照表)です。まず、注目したいのは、その資産合計です。736兆円余りあります。これはとてつもない額ですが、この額は、現状の名目GDP約540兆円の1.3倍以上あります。
それでもこの額が多いのか、ピンとこないかもしれません。米国の中央銀行FRBの資産残高は現状約9兆ドルで、米国のGDPは2022年で約25兆ドルと推計されていますから、米国の中央銀行は名目GDPの0.4倍以下の資産しか保有していないことが分かります。
つまり、経済規模から見た場合に日銀はとてつもなく大きな資産を抱えているということになります。