アベノミクスで「自己資本比率」が大きく落ちた

その中でも目を引くのが国債です。3月末で526兆円の残高があります。図表1にはありませんが、そのうち511兆円が長期国債です。

2013年4月に始まったアベノミクスの「異次元緩和」により、日銀は主に民間金融機関が保有する国債を買い上げることで、資金の大量の供給を行ったのです。具体的には、国債を買い上げ、その代わり金を「日銀当座預金」という各金融機関が日銀に保有する当座預金口座に入金することで、資金供給を増やしたのです。

日銀当座預金と日銀券の合計を「マネタリーベース」と言いますが、アベノミクス当初には合計で135兆円程度だったマネタリーベースは、最近では660兆円程度まで膨れ上がっています。

その大部分は、国債などを買い入れて増加した日銀当座預金です。図表1にある日銀のバランスシートの負債の部には「預金」が589兆円強計上されていますが、そのうち当座預金は563兆円です。

負債の部には、「発行銀行券」として120兆円弱が計上されていますが、日銀券も民間銀行から預かっている当座預金も、日銀にとっては負債となります。

衆院財務金融委員会で答弁する日銀の黒田東彦総裁=2022年6月8日、国会内
写真=時事通信フォト
衆院財務金融委員会で答弁する日銀の黒田東彦総裁=2022年6月8日、国会内

資産の部に少し話を戻しますと、国債のほかにもうひとつ目立つのが「上場投資信託」です。日銀のバランスシートには、正式には「金銭の信託(信託財産指数連動型上場投資信託)」と記載されていますが、一般的には「ETF」と呼ばれる上場投資信託を36兆円あまり保有しているのです。ETFを通じて、上場株式を買っているのです。銘柄によっては日銀が実質的に大株主という企業も少なくありません。

つぎに図表1右下の純資産の部を見ましょう。日銀の資本金は1億円です。純資産の大半を占めているのが、法定準備金で3兆4000億円弱あります。また、当期剰余金が1兆3000億円ほどあり、純資産の合計は4兆7000億円です。

一般企業と同じ基準で「自己資本比率(純資産÷資産)」を計算すると、0.6%程度で極めて低い数字です。日銀が資金繰りに困るということは普通ではありませんから、現状、問題はありません。しかし、アベノミクスで資産が急激に拡大したことが、自己資本比率を大きく落としているということも事実です。