抗酸化物質は不老の薬ではない

人間の細胞もまた、ストレスや紫外線などを感知すると、自ら活性酸素を発生させる。そして、その活性酸素は、細胞を傷つけ、さまざまな症状を引き起こす。長く生きていれば、細胞も劣化が進んでしまうだろう。そんな活性酸素を除去するために、植物の抗酸化物質が効果を発揮するのだ。

植物は、豊富なアンチエイジング物質を持っている。

しかし、不思議なことに、植物は老化する。

美しい花も、やがて萎れ、生き生きとした葉もやがて枯れていく。

写真=iStock.com/manuel_adorf
※写真はイメージです

植物にとって抗酸化物質は、アンチエイジングのためのものではなく、病原菌や環境ストレスから身を守るための物質に過ぎないのである。

もっとも、よくよく考えてみれば、私たち人間にとっても、抗酸化物質でアンチエイジングすることはできない。

もしかすると、抗酸化物質は、肌をピチピチに保ち、「肌の老化」を抑制するかもしれないが、それでも体は老化していく。アンチエイジング物質をどんなに摂取しても、老化を止めることはできない。どんなに見た目が若々しく維持できたとしても、体は確実に老いていくのだ。

稲垣栄洋『生き物が老いるということ』(中公新書ラクレ)

抗酸化物質は、不老の薬ではない。

「アンチエイジング物質」とは呼ばれていても、抗酸化物質で老化を止めることはできない。抗酸化物質ができるのは、病気になるリスクを減らし、健康に老化を進めることだけなのだ。

植物にとっても、それは同じである。

植物のアンチエイジング物質は、けっして老化しないための物質ではない。植物にとって、それは生きていくための物質である。

そして、植物もまた、大量の抗酸化物質を持ったまま、静かに老いていくのである。

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