〈BATNA〉が多くの人にとって新鮮な概念であるのは、ふつうは交渉の最中に、その交渉が成立しない場合のことまでなかなか頭がまわらないためです。

相手が提示する条件がまったく揺らがなかったり、逆に交渉条件が目まぐるしく変わっていったりすると、とにかく目の前の相手と〈合意〉しようと焦ってしまい、変な妥協をしがちなのです。

だからこそ、交渉に臨むときはつねに〈BATNA〉を自分の手元に持っておかなければなりません。これが交渉において守るべき合理的な方法論であり、交渉を成功へ導く「方程式」といえるのです。

〈BATNA〉の典型例は「相見積もり」

相手と〈合意〉しないことを前提とする〈BATNA〉の概念に慣れない人もいるかもしれませんが、ビジネスパーソンのなかには、ふだんの業務のなかで、すでに〈BATNA〉を使いこなしている人はたくさんいます。

それが、「相見積もり」を取ることです。

最近は、日本の企業でも「相見積もり」を取ることが増えてきましたが、これはまさに、自ら〈BATNA〉をつくっていく姿勢にほかなりません。

目の前のA社との取引を考えながら、別のB社やC社からも見積もりを取るわけですから、B社やC社からの提案内容が、自分たちの〈BATNA〉となります。

つまり、A社と〈合意〉する前に、B社やC社という〈BATNA〉を比較考慮し、最終的な契約に至ろうというわけです。

この交渉プロセスでは、「A社との〈オプション〉≧B社またはC社との〈BATNA〉」という「交渉の方程式」に適合するかどうかが、問うべきことになります。

ちなみに、方程式における大小関係を決めるときは、単に金額だけでなく、今後の取引関係を考慮するなど、そのほかの要素も考える必要があります。目先の金銭的利益だけを取って、長期的な関係性を毀損きそんすることはよくある話です。

ただし、最近の傾向としては、あまり不確定要素を気にせず、純粋に金額だけで決めるために相見積もりを使う傾向があります。