高性能マスクでも、感染を防げるかは相手次第

不特定多数の人を日々診療している“水際”で働く医師をはじめとした医療スタッフは、「知らぬ間に新型コロナウイルスに感染してしまっている無症状感染者」である可能性を否定できない立場となった。私も含め、自分がうつされる恐怖以上に、万が一でも患者さんに感染させてはならないとの思いからマスクを装着した医療者も少なくなかっただろう。

私も発熱や咳等の症状を有する人を診療する際はN95マスクを着用するようにしたものの、それで完全無敵だと思ったことは一度もない。事実、全スタッフにマスク必須としていた医療機関であってもクラスターが発生し得ることはご存じの通りだ。

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もちろんマスク装着によって自らが感染するリスクをある程度低減させられることは、最近の研究でも明らかとなっている。ノーマスクと比較すると、いわゆる“アベのマスク”と呼ばれる布マスク、次いでサージカルマスク、さらにN95マスクとマスクが高性能なものになるにつれ、吸入するウイルス量を減少させる効果が期待できるというシミュレーションもある。

こうした研究からは、ウイルスを排出する側、吸入する側が互いに高性能のマスクを隙間なく適切に装着していれば感染リスクはかなり低減されることが示された一方で、感染の成立には常に相手があることを考えれば、いくら自分が高性能マスクをしっかり装着したところで、相手のマスクの種類や使い方しだいでは感染防御が困難であることも理解できよう。

鼻出し、ゆるゆる、ずれ、あごマスク…

そもそもこの2年間、ほとんどの人がマスクを着用するようになったが、その使い方は皆まちまちだ。

街ゆく人たちを観察してみると、さすがに布マスクやウレタンマスクを着けている人は以前より減ってはいるものの、顔になんらかの布切れさえ着けていれば批判されなかろうとの意識からか、マスクを適切に使用していない人は決して少なくない。“鼻出しマスク”や“ゆるゆるマスク”、“ずれマスク”や“あごマスク”といった顔面にフィットさせない形ばかりのマスク着用をしている人を見ると、着けていなくても同じではないかとさえ思えてくる。

また街路ではマスク装着しているものの飲食店に入るや「やれやれ」とばかりにマスクを外して大声で歓談し始める人、記者会見会場に入室するまではマスクをしているのに、マイクの前に立った途端やにわにマスクを外して話し出す閣僚、先日のバイデン大統領来日時など外国要人と歓談する岸田首相自身のマスク着用基準が不統一であることなど、不可解な光景を目にするたびに、いま改めてマスクの意味と使い方についての考え方を問い直すことが必要ではないかと思う。