コロナ禍では「手指のアルコール除菌」が常識になった。これはどんな影響を及ぼすのか。生物学者の池田清彦さんは「新型コロナ対策としては必要だが、子供たちの免疫力には影響があるかもしれない。必要な免疫力が育たないまま大人になってしまう恐れがある」という――。

※本稿は、池田清彦著『病院に行かない生き方』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

手コロナウイルス保護のために消毒剤を使用する母子
写真=iStock.com/Maksym Belchenko
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人に教わった健康法に頼っていては健康になれない

前回の記事では「世の中の健康の常識ほど当てにならないものはないので、何が自分に合うかは、自分自身で試してみるほかはない」という話をした。

要するに「自分の体の声を聞け」そして「自分で判断しろ」ということだ。当たり前だが、野生動物にとってはそれが、唯一の健康法になる。

例えばコアラはユーカリの葉を主食としているが、実は毎日同じユーカリを食べているわけではない。ユーカリにはいろいろな種類があり、その日にどの種類のユーカリを食べるのかを、その日の体調に合わせてコアラは「自分で」決めるのだ。

動物園で飼われているコアラの場合も、前日はおいしそうに食べていたユーカリを翌日は一切食べないということはよくあるそうだ。

食べないと判断したユーカリには、どんなにお腹が空いていても見向きもせず、食べると判断できるユーカリが見つからないと、体調を崩すことさえあるというからすごい。

そうなると、動物園はたくさんの種類のユーカリを準備しなくてはならなくなる。それでも手をつけるのはせいぜい2~3種類らしいから、コスパ的には最悪だろう。ある動物園ではそのせいで、動物園全体のエサ代の半分がコアラのエサ代だった時期もあるそうだ。

実はユーカリの葉は消化が悪い上に、毒素も含まれている。コアラは子どものうちに母親の便を食べて、ユーカリの毒を時間をかけて分解する腸内細菌を受け継いでいるので、ユーカリをエサにすることができるのだが、もしもその日の体調に合わない種類のユーカリを食べてしまうと、体に余計な負担をかけてしまうことをコアラは本能的に知っているのかもしれないね。

そういうコアラのような「体の声を聞く」姿勢は人間も大いに見習ったほうがいい。

「健康にいい」という謳い文句に踊らされるだけで自分の体と相談することをせず、誰かに教えられることに頼りきりになっているうちは、本当の健康なんて手に入れることはできないと思う。