除菌に励む危険性

腸内フローラ(腸内細菌そう)のバランスが人間の健康に大きくかかわっていることが、メディアでも大きく取り上げられるようになった頃から、お腹の中の善玉菌をいかにして増やすかということにみんな興味津々であるようだ。

けれども、細菌叢というのは腸内だけにあるわけではない。普段はあまり意識しないだろうけど、実は皮膚にも腸内に匹敵するくらいの膨大な数の細菌がみついている。それが皮膚のノーマルフローラと呼ばれるものだ。

ノーマルとは言葉通り「正常な」という意味で、ノーマルフローラとはすなわち「正常な細菌叢」のことである。つまり、我々は無菌状態で生きているわけではなく、ものすごい数の細菌がくっついているのが正常だということだ。

細菌というと、なんだか汚いもののように思う人が多いけれど、それは細菌に対して失礼じゃないかな。だってたくさんの細菌がくっついているからこそ、それがバリアとなって、危険な細菌を追っ払ってくれるんだから。

そもそも人間の体というのは絶対に無菌にはならない。一時的に菌が取り除かれたりすると、そこに別の菌がくっつくようにできている。新しくくっついたのが悪さをする細菌だったら、やっかいな症状を引き起こすこともある。つまり、本来そこにあるべき細菌がなくなってしまうというのは、バリア機能を失うのと同じなのだ。

文明が発達したおかげで、石鹸やら除菌シートといった、細菌だけでなく、ウイルスまで落としてくれるアイテムを人間はたくさん手に入れた。それらがさまざまな感染症の予防に貢献したことは間違いないだろう。もしもそういうものがなかったら、コロナ禍だってもっとひどいことになっていたかもしれない。

しかし、潔癖症で一日に何度も手を洗わずにはいられない人が、乾燥肌やアレルギー症状に悩んでいるケースも非常に多い。必要な菌まで洗い流されてしまったぶん「空き」ができて、悪玉菌がどんどん増えてしまうからだ。

「汚すこと」で病気から身を守る野生動物

野生動物に目を向ければ、体についた汚れを水を浴びてさっと落とすことはするけれども、目に見えない細菌まで落とそうとするヤツはいない。アライグマだって洗っているのは食べ物であって別に体を洗っているわけではないし、ネコがしょちゅう体を舐めているのは主に体温調節のためと、体についたニオイを消すためだ。

カバなんかは、せっかく水を浴びて汚れを流したかと思ったら、わざわざドロ浴びをする。せっかく綺麗になったのに、なぜそんなことをするのかと不思議に思うかもしれないが、あれは体の表面に泥をつけることで、体を乾燥から守り、自分のノーマルフローラを守っているんだよね。見かけは決して綺麗ではないが、病気から我が身を守るための、実に合理的なやり方なのである。

泥穴でカバ
写真=iStock.com/ANPerryman
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