なんのために戦うのか理解できないロシア兵

第三に、そしておそらくもっとも深刻なものとして、ロシア軍の兵員のモラール(士気)の問題。戦争は攻めるほうも攻められるほうも、いずれも命をかけて戦っている。そうであれば命をかけても惜しくないという理由、大義名分が絶対に必要である。

ところがロシア軍にはこれが決定的に欠如している。戦闘開始時点でロシア側が挙げた侵攻目的(「非ナチ化」など)はいずれも荒唐無稽で信じるに足りず、最前線で戦うロシア軍兵士は何のために戦うのか、理解できないまま命をかけた戦闘を行なわなければならない。

これに対してウクライナ軍は祖国のため、愛する妻子のため、家族のために戦うという理由が極めて明確である。この士気の違いは戦場において大きな意味をもつ。戦闘のあらゆるレベルでロシア軍に不利に働くであろう。

3月末以降戦い方を変えたロシア

しかしさすがにロシア軍も、このままではまともに戦えないことを強く認識し、3月末以降、戦い方を変化させた。

倉井高志『世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」』(PHP研究所)

3月25日、ロシア軍は「第一段階の主要課題は達成した」として、「主力を主たる目的であるドンバスの解放」に集中させると発表、首都キーウ周辺は部隊を一旦ベラルーシまで退却させ、その後、部隊を東・南部での戦闘に投入、加えて全般的な兵員の補充を含め東・南部での戦闘に集中する態勢をとり始めた。

これは上述の第一の問題、すなわちそれまでに見られた大隊戦術群の問題を克服しようとするもので、軍事的には合理的な行動と言える。

また、第二の指揮統制の問題についても4月9日、南部軍管区司令官であったドゥヴォルニコフ大将を対ウクライナ戦全体の戦域司令官として任命し、統合的な指揮統制を可能とする体制をとった。これも軍事的には合理的な行動である。

以上の戦い方の変化により、4月初め頃の段階でロシアとしては当面とにかくドンバスを拡張してクリミアと連結し、ロシア本土とクリミアを陸路でつなげ、さらに占領できるところまで占領したところで、例えば「ノヴォロシアの復興を達成」などとして5月9日の戦勝記念日における目玉にしようとしていた可能性がある(ノヴォロシアとは、ドンバスから南部の黒海沿岸地域を指す帝政ロシア時代の呼称)。

ただその後明らかになったように、5月9日までにこれを達成することはできなかった。

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