広範囲での戦闘には向かない部隊編成

ところがこの部隊は、ウクライナ全土を制圧するような広範囲な戦闘には向いていない。これを無理矢理投入しようとするとさまざまな問題が生じるが、なかでも補給の問題が大きい。何らかの工夫をしなければ100キロメートル、200キロメートルと進軍する中で必ず「息切れ」してくることになる。

今回の軍事侵攻でも北部戦線のロシア軍は3月中旬頃には武器・弾薬、食料等の補給に苦しみ、またこれを熟知するウクライナ軍は燃料運搬車両など補給部隊を次々と攻撃していった。

加えて、そもそもウクライナの全土制圧を考えるのであれば、少なくとも25万人はいるウクライナ兵に対して3倍の兵力が必要であり、当時ウクライナ国境付近のロシア軍は最大で19万人程度と見積もられていたので、全く足りないことになる。

なぜ将官が次々と前線で戦死したのか

第二はロシア軍の指揮統制の問題。ロシア軍においては3月上旬から4月末に至るまでに未確認分を含め将官だけで合計8人が殺害されたと見られる。

これらから分かることは2つ。1つは通常、前線に出向くことのない将官が戦闘の渦中に前線に姿を現していたと思われることで、これは通常あり得ないことである。前線の兵員がよほど混乱していたか、あるいは通信が機能せず自ら前線に出向いていって指揮をとる必要が生じた可能性もあるが、より確からしいのは、将官の位置を正確に把握できる情報をウクライナ軍が得ていた可能性である。

そしてもう1つは、それぞれの将官の指揮する部隊の所属を見れば、今回の軍事作戦には少なくとも東部軍管区、西部軍管区、南部軍管区の3軍管区が参加し、さらに編成上はそれぞれの軍管区に所属するが黒海艦隊、バルト艦隊、カスピ海小艦隊、及び場合によっては太平洋艦隊からも参加している可能性がある。このような複数軍管区、艦隊の参加する大規模な戦闘の全体を指揮統制する戦域司令官が見当たらない。

ソ連邦時代には合計16の軍管区があり、さらに複数軍管区にまたがる広域戦闘の場合を想定して軍管区を越える戦域司令部が置かれ、戦域司令官も存在した。

今、ロシア軍は5つの軍管区を擁しているが(うち北洋艦隊は昨年、軍管区として昇格したもので、地上軍を中心とする軍管区は4つになる)、複数の軍管区を統合的に指揮統制する戦域司令部は予め設けられていないと見られており、今回の軍事侵攻のために特別に司令部を設置したという情報もない。

そうであれば、ベラルーシ、ウクライナ北東部、ドンバス、クリミアの4方向から少なくとも3つの軍管区の参加する戦闘の全体を統制する司令部が存在せず、各方面の戦闘はそれぞれ独立して行なわれて、全体の統合運用ができていなかったことになる。