雄の交尾器は2つしかないので、両方の生殖口に栓子で蓋をすれば、その雄は交尾能力を失うが、自分の子孫を残す確率は高くなる。

雌の垂体を切り落とすギンメッキゴミグモの雄

雌の生殖器を破壊する

雌の生殖器を破壊するクモとして、ギンメッキゴミグモが報告されている(10)。コガネグモ科のクモは雌の生殖器の中央に垂体すいたい(コガネグモ科のクモに見られる外雌器の突起物)を付けているものが多い。

【写真14】ギンメッキゴミグモの垂体(出典=『カラー版 クモの世界 糸をあやつる8本脚の狩人』)
【写真15】垂体を切り落とされたギンメッキゴミグモ(出典=『カラー版 クモの世界 糸をあやつる8本脚の狩人』)
【写真16】サツマノミダマシの垂体(出典=『カラー版 クモの世界 糸をあやつる8本脚の狩人』)
【写真17】サツマノミダマシの交尾。右雌の垂体が左雄の右交尾器にフック(出典=『カラー版 クモの世界 糸をあやつる8本脚の狩人』)
【写真18】ヤマシロオニグモの交尾。下雌の垂体が上雄の左交尾器にフック(出典=『カラー版 クモの世界 糸をあやつる8本脚の狩人』)

ギンメッキゴミグモの雄は、交尾後にその垂体を切り落としてしまうという。サツマノミダマシとヤマシロオニグモの交尾写真【写真17】【写真18】で示したように、交尾の際に垂体は興奮すると立ち上がり、先端を雄の交尾器の突起に引っかけて、雄の栓子を生殖口に誘導する働きをする。

そのため雌の垂体がなくなれば、雄はその雌と交尾ができない。同様にギンメッキゴミグモより数は少ないが、ギンナガゴミグモも垂体が取れている個体が見られる。

このように自分だけの子孫を残そうとしていろいろな手段を使い、精子競争を行っているクモも、まだまだ身近にいると思われる。

(1)Robinson, M. H., Robinson, B. (1980) Comparative studies of the Courtship and Mating Behavior of Tropical Araneid Spiders, Pacific Insects Monograph 36, 218p. Dept. of Entomology, Bishop Museum. Hawaii. U.S.A.
(2)Robinson et al., 1980
(3)池田博明・稲葉茂代・小川まゆみ・山口泉・島津千秋・鴾田明子・田村武子(1983)「ムラクモヒシガタグモの造網・交接・卵のう制作」『Atypus』82: 28-34
(4)佐藤幸子(1983)「ナニワナンキングモの観察」『Kishidaia』50: 15-17
(5)Schäfer, M., Uhl, G. (2002) "Determinants of paternity success in the spider Pholcus phalangioides (Pholcidae: Araneae): the role of male and female mating behaviour", Behavl. Ecol. Sciobiol. 51: 368-377
(6)吉倉眞(1982a)「ササグモの貞操帯」『HEPTATHELA』2(2):43-46
(7)Masumoto, T. (1993) "The effect of the copulatory plug in the fummel-web spider, Agelena limbata (Araneae: Agelenidae)", The Journal of Arachnology 21: 55-59
(8)吉倉眞(1982b)『クモの不思議』岩波新書
(9)Ihara, Y. (2006) "Cybaeus jinsekiensis n. sp., a spider spiecies with protogynous maturation and mating plugs (Araneae: Cybaeidae)", Acta Arachnol. 55(1): 5-13
(10)Nakata, K. (2016) "Female genital mutilation and monandry in an orb-web spider", Biol. Lett. 12(2): 20150912

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