雌雄の大小の差が大きいものほど、交尾後食われているのを時々見かける。特にコガネグモやナガコガネグモの雄はよく餌食となっている。
ヒメグモ科のムラクモヒシガタグモは林床にX字状の網を張り、オオヒメグモと同様に一本釣りで獲物を捕らえる。このクモも雄が交尾糸で求愛信号を送ることが報告されている(3)。
雄の流した糸が雌のX字状の網の上糸に触れると、雌は下糸を切り、雄の糸と上糸はつながった1本の糸になる。雄は雌に糸をはじいて信号を送り、歩脚の触れ合いの後、交尾に至る。
雄を食べる雌、食べない雌
雌に命を委ねる――サラグモの仲間
ここまでクモの雄が交尾の際にどうしたら雌から食われないようにするか、つまり雌の毒の出る牙から免れるためにどのような行動をとるかを示してきた。ところがサラグモ科のクモは違う行動をとる。
この雄グモは、雌グモの口器の近くに頭部を差し出して交尾をする。雄はその頭部を差し出した状態のまま、触肢を伸ばして交尾する。クスミサラグモはハンモック状の皿網の中心部で、ヘリジロサラグモはシート状の皿網の下で、アシナガサラグモとユノハマサラグモはドーム状の皿網の中心近くで交尾をする。
いずれも交尾中に、生殖球の血囊が黄色味を帯びた風船のように膨らむのがよく見える。膨張と収縮を繰り返し、精子を雌の体内に送り出す。左右の触肢を交互に使い交尾を行う。
交尾姿勢を見ると確かに水平姿勢のヘリジロサラグモは雌の口器の下に頭部を出し、接触しているように見える。他の3種は口器の下ではなく頭胸部の下面に雄の頭部が位置しており、雌の口器とは接触していない。3種とも雄は雌にいまにも食われそうな姿勢であるが、雌は食べようとはしない。
交尾後も同居生活を続けるクモもいる
テナガグモは体長2mm前後の小さなサラグモである。雄のほうが雌よりやや小さい。この小さなサラグモも同様に皿網の下で交尾したが、雄の頭部は雌の頭胸部の下にあって、口器とは接触していなかった。