クモの交尾は命がけだ。『クモの世界』(中公新書)を書いた浅間茂さんは「ギンメッキゴミグモというクモは、自分の子孫だけを残すために、交尾後にオスがメスの生殖器を破壊してしまう。日本には1700種類のクモがいて、熾烈な生存競争を行っている」という――。
※本稿は、浅間茂『カラー版 クモの世界 糸をあやつる8本脚の狩人』(中公新書)の一部を再編集したものです。
コガネグモ科の3パターンの求愛行動
恋の糸電話――ゴミグモ
網を張る大半のクモでは、雄は雌の網に侵入する際に、網をリズミカルに叩いて信号を送り、それで相手の反応を見ながら雌に近づき、求愛行動を行う。5月中頃にゴミグモが、雌の網の中心部近くの縦糸に自分が出した糸をつなげて、盛んに脚でその糸をはじいているのを観察できる。
この糸を交尾糸という。1匹の雌に、多いときは6匹の雄が糸をはじいているのを見かける。雄は雌の反応を見ながら交尾糸を盛んにはじくが、なかなか交尾には至らない。この恋の糸電話に反応して、雌が交尾糸を伝ってくると、すばやく雄は近寄り、交尾をする。
コガネグモ科の求愛行動について次の3パターンが報告されている(1)。
Aグループ:雄は雌の網に入ってきて、こしき(円網の中心部)で求愛し、こしきのところで交尾する。
Bグループ:雄は雌の網に入ってきて、こしきで求愛後、こしき近くの網に穴を開けてそこから交尾糸を引き、その糸を振動させ雌を呼び、その糸上で交尾する。
Cグループ:雌の網に入らず、枠糸と縦糸の接点に交尾糸を付け、それを振動させ雌を呼び交尾糸上で交尾する。
交尾後が一番危ない
恋の糸電話をするのはBとCグループである。ジョロウグモ、ナガコガネグモはAグループ、ムシバミコガネグモはBグループ(2)、ゴミグモはCグループに属する。
コガネグモやナガコガネグモの交尾時間は短く、交尾が終わった瞬間に、雄は雌に食われないように、すばやくしおり糸を引いて逃げる。雌に近づくときは慎重に様子を見ながら近づくことができるが、一番危ないのが、交尾後である。