リストもついに終盤へ…偏差値40台の学生たち
連絡も終わりに近づくと、大学の偏差値は50を切り、40台になった。
そのレベルの大学の学生は電話を待ち構えているのか、午前中でも留守番電話(※5)になることは少なかった。
※5:電子メールが普及する前は、電話で用件を伝えることがふつうだった。番号を直接ダイヤルするので間違い電話もよくあった。私の留守番電話にも「高橋さん、先に行ってますよ。場所わかるよね?」といったものや、「食堂の丸藤ですけども、パン粉袋とマヨネーズといつもの油、お願いします」というメッセージが入っていたことがある。
「凸凹大学の殿岡さまでいらっしゃいますでしょうか?」
「はい……」
この時点では内定の連絡とわからず、何かの勧誘の電話ではないかと疑っている。
「メリルガン証券採用担当・吉川と申します。先日は面接にお越しいただき、ありがとうございました」
「あっ、はい、いえ、こちらこそありがとうございました」
慌て方に緊張の度合いがわかる。
「採用させていただきます。今後のスケジュールにつきましては別途お話しさせていただきますので、ご都合のよろしいときに、これから申しあげる番号にご連絡いただけますでしょうか?」
「ちょっ、ちょっと待ってください。今、筆記用具を出します。すみません。ちょっとお待ちください。すみません。はい、大丈夫です」
「番号は03–55××–××××です。それではご連絡をお待ちしております」
「どうもありがとうございました!」
携帯電話を耳に当てたまま頭を下げている姿が見えるようだ。
「こちらの方が嬉しくなる」ホームで大喜びの内定者
電話したときに電車に乗っていた学生もいた。
「卍卍大学の兵動さまでいらっしゃいますでしょうか?」
「あとで折り返します。今、電車の中なので」
「メリルガン証券採用担当・吉川と申します。折り返しの番号は……」
「あっ、しょ、少々お待ちください。もうすぐ駅に着きますので」
沈黙が10秒ほど続き、ドアの開く音がしたかと思うと、ざわついた音や乗り換えのアナウンスに混じって、
「今、降りました!」
「よろしいでしょうか?」
「少々お待ちください! ホームのはじに行きます!」
ざわつきが次第に遠ざかる。
「はい! 大丈夫です!」
「先日は面接にお越しいただき、ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました!」
「採用させていただきます」
「ありがとうございます!」
「今後のスケジュールにつきましては別途お話しさせていただきますので」
「ありがとうございます!」
「ご都合のよろしいときに、これから申しあげ……」
「しょ、少々お待ちください!」
電車の通過する音が聞こえる。
「すみません! も、もう一度お願いします!」
「ご都合のよろしいときに、これから申しあげる番号にご連絡いただけますでしょうか」
「かしこまりました!」
「番号は03–55××–××××です。ご連絡をお待ちしております」
「ありがとうございます! ありがとうございます‼」
こちらが嬉しくなるほど喜んでいる。