京都の企業は強いと言われるが、そこにはどんな背景があるのか。日本総合研究所調査部長でチーフエコノミストの石川智久さんは「京都企業の凄さは、伝統にイノベーションを加えることや、市場の小ささを逆手にとった逆転の発想を大事にしていることだ」という――。

※本稿は、石川智久『大阪 人づくりの逆襲』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

稲盛和夫の京セラが作られた背景

経済の世界で話題になっている話に、「なぜ京都企業はグローバル化したのか」という議題があります。それには様々な理由が考えられます。

一つは伝統を大事にしつつ、そこに新しい様式をどんどん加えること。例えば西陣織は京都の偉大な産業ですが、明治時代にジャガード織機が輸入され、それを導入したことから、西陣織は発展していきます。

また京焼が明治維新後、産業用陶器の生産を始め、それが新産業を生み出しています。伝統の普及に伴い、陶器製碍子メーカーとして大企業に成長したのが松風工業です。そして松風工業に当初勤務しながら、仲間を募って独立し、新たな会社を作ったのが、稲盛和夫いなもりかずお氏の京セラになります。

もう一つが逆転の発想です。京都は市場規模が小さく、京都市内だけではあまり大きくなりません。また東京や大阪にはかなり強力な競争相手がいます。

そうした中、自分たちの強みを磨き上げ、それで世界に打って出るという戦略をとっています。グローバルナンバーワンになるためには、かなり分野を絞り、強みがあるものに特化する必要があります。

そのため、京都の企業は部品メーカーが多い傾向があります。

最後に京都企業の最大の特徴を挙げます。グローバル展開しているため、本社を東京に移す必要がないということです。京都の方は京都を非常に愛していて、本社を東京に移したくない、という思いもあるでしょう。

京都の製造業がグローバル企業となった4つの感性

また、京都はおいしいお店が多く、京都経済人は京都の飲食街で様々な議論をすることで、知見を深めています。この「京都の飲食街」の果たす役割は、とてつもなく大きいです。

京都は企業人だけでなく、観光客も多く、また大学の街であることから、世界中から高名な学者が京都に来訪します。

京都大学
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そして京都の企業人は、こうした世界の知性の講演会を聞いたり、食事会を開いたりして勉強しています。それが京都企業の強さに繋がっています。

京都の代表的な企業である堀場製作所の堀場会長は、京都企業には四つの感性があり、それが強みになっているとしています。

一つ目は人のマネをしないという考え方です。京都という、盆地の限られた空間のなかで人と共生するためには、他人の仕事を邪魔するのではなく、自分にしかできない仕事を行うべきだ、という考え方があるとしています。

確かに喧嘩をしないためには、競争しないという戦略は一理あり、そのためには新しい市場に出ていく必要性があるといえます。