局長が局舎を持つことのうまみ
ただし、局長がここまで局舎を持つことに固執するのは、金銭的な利得だけが目的ではなさそうだ。
局長が局舎を持つ金銭的なうまみは、民営化後のルール整備によって、かなり圧縮されている。
大ざっぱに言えば、株主からの批判を受けにくいように、局長が得も損もしにくいような賃料水準に設定されている。得をさせた場合に社員の不当利得が疑われるだけでなく、損をさせた場合でも、会社が従業員に不利益を強いているとの疑念が生じかねないためだ。
少なくとも金銭的には、日本郵便が局舎を新築する場合と、局長から新築局舎を借りる場合とで、日本郵便の負担額に大差はない。局長が大もうけしないよう賃料を抑えている半面、不利益も与えないように、固定資産税や修繕費といった諸経費は会社側が負担するうえ、長期契約を打ち切る場合は投資額の大部分を補償するという特約までつくからだ。
ただし、この「得も損もしない」賃料水準は、局長が金融機関で数千万円単位のローンを組むことが前提で、賃料水準には純粋な投資額と経費負担のほかに、借金した場合の「利息分」が上乗せされている。
これは何を意味するのか。会社が現金で局舎を建てる場合と比べれば、賃料に上乗せする利息相当分は無用なコストとなる。局長が現金で投資して会社に貸せば、局長のもうけが利息相当分だけ増える。
実際には、局長が借金をして土地を仕入れ、新局舎も建てる例が多い。一番もうけを得るのは、局長に資金を融通した貸し出し元となる。日本郵便の賃料を元手に甘い汁を吸っているのはだれなのか。
郵便局長協会から融資を受けて局舎を建てる構図
朝日新聞の調査によると、過去3年の移転局舎のうち少なくとも2割強の52局が全国各地の「郵便局長協会」から約33億円を借り入れていた。金利は年0.8~2.4%で、20年の返済期間で試算すると、過去3年の融資分だけで年数千万円の利息収入が生じる計算だ。
局舎を担保とせず融資する例もあり、実際の融資額はもっと多い。局長の家族が地銀などで借りているケースもあるが、局長自身の借金は郵便局長協会から借りる場合がほとんどだ。
全国に12ある郵便局長協会は一般財団法人で、局長への資金貸付などがおもな事業だ。役員や所在地は各地にある地方郵便局長会と重なり、法人格のない局長会の「表の顔」のようなもの。局長が局舎を建ててお金を借りるほど、局長会側に注ぎ込まれる利息収入は増える構図となっている。