郵便局が新たに建ちそうな土地を、多くの郵便局長たちが物色している。郵便局を営む日本郵便に建てさせるためでなく、従業員である局長自身が長期安定の賃料収入を得るために――。これは昔話ではなく、同社が民営化したいまも漫然と続く異常な慣習だ。
農家から買った土地に郵便局が建設された
「畑の一角を売ってもらえませんか」
東海地方で果物農家を営む70代の男性のもとに数年前、地元の不動産業者がやってきた。ちょうど土地の整理を考えていた男性には好都合だったが、提示額は相場よりすこし安いように感じられた。
不動産業者から教えられた土地の買い手は、面識のない郵便局長だ。なぜ日本郵便ではなく、郵便局長が買うのか。不思議な気はしたが、業者からは「よくあることだから」と諭された。
その後、日本郵便東海支社の社員が訪ねてきた。局長と同じ勤め先なのに、社員は「日本郵便のほうに土地を譲らないか」と言ってきた。男性は素直に「値段がいいほうに売るよ」と応じたが、その社員が交渉を進めることはなかった。
結局、土地は局長に売ることで手を打った。交渉相手はずっと不動産業者で、局長とは契約手続きで初めて会ったという。
男性が手放した土地には今年、ぴかぴかの郵便局舎が建った。持ち主は当の郵便局長で、雇用元でもある日本郵便に貸して月数十万円の賃料を得ているはずだ。