局舎を郵便局長に持たせようとする慣習
日本郵便が直営する約2万の郵便局のうち、物件を借りている局舎は約1万5000局あり、賃料総額は600億円近くに上る。
内部資料によれば、郵便局長やその家族、元局長らが保有する局舎は2019年4月時点で1万局超。局数ベースで単純計算すれば、400億円規模が郵政社員やOBの懐に流れていることになる。
だが、ここで着目したいのは局舎の「ストック」ではなく、新たに移転したり開局したりする「フロー」のほうだ。
全国に約1万9000ある旧特定郵便局は、お金のない明治政府に代わり、地方の名士が自宅などを無償提供してつくったのが始まりだ。局舎が局長職とともに親から子、さらに孫らへと“世襲”で引き継がれた例も多い。
だが、同じ土地で建て替える新局舎ならまだしも、移転したり開局したりする新規の郵便局舎でも、局長になんとか持たせようという動きや構造が根強く残されている。民営化して14年もたつというのに。
朝日新聞の調査では、日本郵便が2018~20年に移転した局舎のうち、少なくとも3割の所有者が21年時点の局長名と一致した。これとは別に、元局長や、局長の家族とみられる所有者の物件もある。新築の戸建て局舎に絞れば割合はもっと高い。
土地の所有権を調べると、現役局長が保有する局舎用地の5割超が、局舎が移転する前の直近2年以内に取得されたものだった。残りの4割超の土地の多くは、局長が地主から借りているとみられる。
企業と役職員の個別取引が常態化
会社の営業拠点となる不動産物件を社員が取得し、勤め先である会社に貸し出して賃料を得る――。それが日本郵便では特殊な例ではなく、全国各地で常態化しているのだ。
企業と役職員との個別取引は、利益相反や不当利得が生じやすいため、極力避けるというのが企業経営の常識である。
非上場の同族経営なら、好き勝手にやればいい。歴史的な経緯から、営業拠点となる不動産を創業家が保有している例も確かにある。
だが、日本郵便を中核とする日本郵政は、れっきとした東証一部の上場企業だ。今年10月にも政府の保有株が、一般投資家へと売り出されたばかりだ。民営化前の非常識な慣習に目をつぶることは許されるはずがない。