この踏切は、線路と道路が約30度の角度で斜めに交差しているため、歩きにくかったり、自転車のハンドルを切ると車輪がレールの間に挟まりやすかったりする危険があります。このような独特の形状、構造も、事故が続く一因には違いありません。
もっとも、踏切を管理する京王電鉄もただ手をこまねいているわけではなく、2004年の事故後、遮断機を線路と平行に付け替える、踏切の長さを35mから23mに短縮する、警報時間を8秒から14秒に延ばすなどの対策をとっています。
それでも事故はやまず、特に高齢者ばかりが犠牲になっているのです。
「少し距離の長い踏切」が“死の踏切”になる
いうまでもなく、被害に遭った人たちは、警報機が鳴る前に、踏切を渡り始めています。ところが、踏切の長さを10m以上短くし、さらに警報時間を長くしても、列車が踏切に差しかかるまでに渡り切れず、再び高齢者が事故に巻き込まれてしまいました。
多くの人にとっては「少し距離の長い踏切」も、歩行弱者になりがちな高齢者にとっては向こう側に渡るのもまさに命がけの「死の踏切」になりかねないのです。
実際、学識経験者、鉄道事業者、道路管理者、警察庁、国土交通省からなる「高齢者等による踏切事故防止対策検討会」の報告によれば、2013年度の踏切事故死亡者のおよそ7割が歩行者で、そのうちの約4割を65歳以上の高齢者が占めています。
事故にまで発展しなかったとしても、横断歩道や踏切を渡り切れなかった経験は、高齢者に悪影響を与えます。
一度、危険な目にあった状態で、再び外に出たくなるでしょうか? 無事に横断歩道や踏切を渡り切れないことで、外出のハードルが、とてつもなく高くなってしまうのです。
結果、買い物にも行けない、友人たちと会うこともできない。家に閉じこもってしまい、身体がどんどん弱り、寝たきりへと進んでいくのです。
もちろん、横断歩道にしても、踏切にしても、何かしらの改善をしてほしいと思いますが、それよりも考えなくてはならないのが、なぜ、青信号や踏切を渡り切れないほど、身体機能が低下してしまったのかということです。
彼らの多くは、のんびり歩いていたために渡り切れなかったのではありません。渡り切ろうと一生懸命歩いても、身体機能が追いつかず、渡り切れなかった方がほとんどです。
介護支援が行き届いていないという根本問題
ここで現れるのが介護による支援の問題です。
青信号の間に道路を渡り切れないことは、すでに、介護による支援が必要な状態であることの目安です。介護によって支援し、なるべく、そのような身体の状態にならないようにする必要があります。
それなのに「道路を渡れない老人たち」が300万人以上もいるわけです。この事実は、今の日本の介護による支援の問題を、如実に表しているような気がしてなりません。
私は、大きく分けて、2つの問題があるのではないかと考えます。