そうなると、介護による支援が遅れて、結果的に家族も本人も苦労してしまう。せっかく介護保険制度という制度ができ、十分ではないですが、国や地方自治体で支援する体制があるのにもかかわらず、支援を受けないのは、なんとももったいないことです。

ぜひ、介護のマイナスなイメージを払拭して、前向きに考え、情報を得て、介護による支援をどんどん利用していってほしいのです。

介護が必要になってからでは遅い

他人に迷惑をできるだけかけず、身の回りのことを自分でできて、買い物に行ったり、友達と外出したり、好きなものを食べたり。これまで長い間家族で歩んできた当たり前の幸せを、本人も家族もあきらめることなく「護る」ために、専門職が「介入」すること。それこそが介護だと私は思います。

神戸利文・上村理絵『道路を渡れない老人たち』(アスコム)
神戸利文・上村理絵『道路を渡れない老人たち』(アスコム)

しかし今日の介護の現場では、効率重視や無知による誤った支援で、「高齢者が当たり前の幸せを感じ続けられる可能性」を、潰してしまっているケースが散見されます。いざとなってからでは、なかなか考える余裕が生まれません。日々を過ごすのに手いっぱいになってしまいます。言われるがままにして、その時々で必要な支援を受けられず手遅れになってしまう恐れもあります。

ケアが早ければ早いほど、他人に迷惑をかけず、余計な気遣いをせず、自尊心を保ったまま、あるがままの姿で、人生のエンディングという総仕上げの時間を送れる期間は長くなる——。それは、長年多くの高齢者を見てきて、断言できます。

だからこそ、なるべく早めに、自身や自分の家族の最後の時期をあきらめることなく、流されることなく、情報を集め、どう守るかを考えてほしい。そして、本人も家族も幸せな時を最後まですごしてほしい。

「道路を渡れない老人たち」では、介護の現状や課題、知っておきたい介護の基礎知識を紹介しています。皆さんの人生がより良いものになるために、少しでも役立てば、これほどうれしいことはありません。

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