「仲良く」と言わないで、仲良くできる企画を立てる

最近は家庭でも学校でも「みんなで仲良く」という話をすることが多いようです。しかしそれは昔から大事にされてきた価値観ではなく、最近できた風潮だと思います。私は子どもの頃に、そんなことを言われて育った覚えはありません。

学校などには「和を大切に」と言う人がいますが、和を大切にしたいのなら、子どもたちにそんなことを指示するのではなく、子どもたちが無邪気に遊んでいるうちに、結果として和がとれるような活動を設定すべきです。

例えば、相性の悪いペアがいる場合には、その子たちの席を離したうえで、一方の子だけが興味をもちそうな活動を設定します。もう一方の子には、別に楽しめることを用意します。そうすると、2人は自然に別々の活動をして、それぞれに誰かと親しく遊んだりします。わざわざ「仲良く」などと言わなくても、環境設定を工夫すれば、子どもたちは結果として仲良くやっていきます。無駄な衝突を防ぐこともできます。

学校でも「みんなで仲良く」などと言っていないで、そういう企画を考えればよいのではないでしょうか。私は、子育てや教育は、大人の側がどんな企画をできるか、どんな環境を設定できるかにかかっていると思います。

「きょうだい関係が難しい」という相談も

また、対人関係については、「きょうだいの関係が難しい」という相談を受けることもあります。よくあるのが、きょうだいのどちらかに発達障害があり、もう一方は「定型発達」という例です。定型発達とは、発達の特性などがない、定型的な発達のことです。例えば、次のようなケースがあります。

Jくんは小学生の男の子です。自閉スペクトラム症の診断を受けています。彼には2歳下の妹がいます。妹は定型発達です。Jくんは会話が苦手で、質問の意図をうまく理解できず、答えに詰まってしまうことがよくあります。一方、妹は言葉が達者です。Jくんが聞かれていることに、代わりに答えてしまうこともあります。

2人は小さい頃は仲良くやっていたのですが、年齢が上がるにつれて、妹がJくんをバカにしたような態度をとることが出てきました。親はそのつど妹を注意するのですが、妹には「自分のほうがよくできる」という実感があるようで、問題がなかなか解消しません。

写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです

親や先生の能力主義的な考え方が子どもに伝染する

「人をバカにする」というのは、能力的に相手を下に見ているということです。そういう態度が多くなるということは、おそらく事例の妹さんは、能力主義的な考え方をしているのでしょう。

家庭や学校などで能力をほかの子と比較されることが多く、この妹さん自身が能力主義に苦しんでいるから、その苦しさをお兄さんにもぶつけているのだと思います。