12歳以上の子供は新型コロナウイルスのワクチン接種ができる。だが、不安を感じて様子見をしている人もいる。小児科専門医の森戸やすみさんは「医師としては世代を問わずワクチンを接種してほしいと思うが、未知の物事を恐れるのは人間の本能。不安は“公平な情報源”に触れることで解消できる」と話す――。
新型コロナワクチンの接種中
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ワクチン不安は「先進国」に共通して生じるもの

ようやく12歳以上の若い世代で新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました。私の小児科クリニックでも接種券をお持ちの方に個別接種を行っています。接種が終わるとみなさん一様にほっとされますね。まだまだ「様子見をしている」方が多いので、帰り際に「学校のお友達にもワクチン打ったよ、あんまり痛くなかったよって教えてあげてね」と声をかけるようにしています。

小児科専門医の森戸やすみさん。ビデオ会議にてお話を聞いた(画像提供=森戸やすみさん)
小児科専門医の森戸やすみさん。ビデオ会議にてお話を聞いた(画像提供=森戸やすみさん)

新型コロナウイルスワクチンに限らず、ワクチン接種そのものに漠然とした不安を感じる方は多いかもしれません。これは日本だけではなく、ワクチン接種が進み恩恵を受けている「先進国」に共通の現象です。

ロタウイルスワクチンの共同開発者であるポール・A・オフィット博士は、著書『反ワクチン運動の真実 死に至る選択(邦題)』のなかで「予防接種プログラムのプロセス」に触れています。それによると国のワクチン接種事業とワクチン接種に対する人々の感情は、つぎの三段階を繰り返す傾向があるそうです。

感染症の怖さを忘れると、接種率が下がる

第一期 「人々が感染症を恐れている」:1940年代の米国では、多くの親がジフテリア、百日咳のワクチンを歓迎した。破傷風、ポリオ、麻疹、おたふく風邪、風疹ワクチンもほとんどの子供が接種している。感染した子供たちが、実際にどんな状態に陥るかを知っている人が大多数だったからだ。

第二期 「ワクチン接種により、感染症が劇的に減る」:ワクチン接種が進み感染症が劇的に減るなかで、感染症の怖さに対する記憶が薄れ、逆に因果関係が明らかではない“副反応”に注目が集まる。ワクチン接種率は横ばいになる。

第三期 「予防接種率が下がる」:ワクチンに対する恐れや不安が高まり、接種率が下がる。この結果、予防できるはずの感染症にかかる患者が増える。

日本をはじめとする経済的に豊かな先進国は、ちょうど第三期にあたります。ワクチン接種によって、感染症をこじらせ命を落とす子供たちを目にする機会が激減し、逆に感染症そのものよりも、実際の被害以上に「副反応」を恐れる逆転現象が起きているのです。

新型コロナウイルスワクチンは、「第一期」と「第二期」の過程をものすごいスピードで突っ走ってきましたようにも見えます。あるいは初めから「ワクチンのような人工的なものを体に入れるのは嫌だ」と思っていた人たちがSNSのためにつながりやすく、見えやすくなっているのかもしれません。しかし、昨年末〜今年春にかけて怒濤の勢いで接種が進んでいた米国やEUでも、ここに来て「コロナはただの風邪。副反応のほうが怖い」とワクチン不安を抱える人たちが接種を拒み、接種率が頭打ちになっています。このまま各国でワクチン接種率が伸び悩む限り、パンデミックの終わりは遠のいていくでしょう。