「特別割引」「実質無料」で安く買えていただけ
とはいえ「高くなった」という印象をめぐる話には、もっともっと複雑な経緯がある。
過去、iPhoneは上記で示した価格以上に安く買えていた。携帯電話事業者が契約の継続に応じて割引をしていたからだ。
例えば、2008年にiPhone 3Gを買う場合、最も安価な8GBモデルだと、分割払いに毎月1920円の「特別割引」がなされて、毎月の端末代支払いは960円で済んだ。最終的な24カ月後の支払いは2万3040円にすぎない。
2013年も同様だ。この時、iPhone 5cをソフトバンクで新規契約した場合、毎月の分割支払額(2205円)と同額の割引が発生していた結果、端末料金は「実質無料」になっていた。
こうした割引の仕組みは、現在は当局からの指導で行えなくなっている。通信契約に対して顧客を縛り付ける要素が強く、顧客流動性と不公平性の是正という観点からの施策だ。
その後、販売価格を下げる仕組みとして登場するのが「買い取り」モデルだ。3年もしくは4年の分割払いを前提として、購入から2年後に、それまで使っていた端末を携帯電話事業者が買い取ることで残る1年もしくは2年分の残債を免除する……という仕組みである。こうすると、スマートフォンの「実質端末価格」は半額から3割程度安くなる計算になる。すなわち、10万円を超える端末も5万円前後で手に入る……という計算だ。
通信料金と端末料金の分離で“本当の価格”が見えてきた
これらの関係から、同じモデルであっても、スマートフォンの販売価格は携帯電話事業者によって異なる。さらに、アップルが売る「SIMフリー版」の価格とも異なっている。ここまで説明してきた価格も、基本的には全てソフトバンク版に基づく。
この点を加味すると「iPhoneが高くなった」という話の核が見えてくる。
確かにiPhoneは、2017年、18年を境に値段がワンランク上がった。下位モデルが2万円上がったことも大きいが、それ以上に、バリエーションの増加によって「特に高いモデルが生まれた」ことの影響が大きい。
そして、同じタイミングで携帯電話の販売における割引規制、正確に言えば「通信料金と端末料金の分離」が行われた結果、iPhoneの販売価格はさらに高いものに感じやすくなったのだ。
値上げがあったとはいえ、スマホの値段は以前からそれなりに高かった。過去には割引後の価格(実質負担額)だけが訴求され、実際の価格は分かりづらかった。だが現在は「通信料金と端末料金の分離」により、実際の価格をまず提示されるので、いきなり高い料金が目に入る機会が増えた……という事情なのだ。