流し読みできる本は電子書籍で、難解な本は紙で読む

——デジタルツールへの依存は、仕事や勉強の質にも関わってきますか。

もちろん影響します。その事実は、新聞を読む行為一つをとってもよくわかるでしょう。まったく同じ記事でも、紙の新聞で読むときと、デジタルスクリーンで読むときを比べると、前者のほうが内容をより深く理解できます。とくに難しい内容の本や記事を読む場合には、その差がよりはっきりと表れます。

それでもデジタルツールに慣れてしまえば、紙とスクリーンによる理解度の差は少なくなり、いずれ同じ程度になると思われるかもしれません。ところが、実際はその逆です。理解度の差は毎年調査するごとに広がっていく、つまり、紙で読むメリットが年々高まっていくということが、10年以上にわたる研究で示されています。なぜそういう結果が出るのかはわかっていませんが、時間が経過するほどスクリーンで浅く読むことに慣れてしまうからかもしれません。

——電子書籍よりも紙の本のほうが五感を刺激するのでしょうか。

そのとおりです。紙の本を読むのは触覚で感知する経験であり、長期的な記憶に結びつきます。空間記憶、三次元の記憶とも言い換えられる。より脳を刺激できるため、内容を覚えやすくなります。一方で、スクリーンでスクロールするだけだと、触覚で感知する経験を十分に得ることはできません。

写真=iStock.com/nicoletaionescu
※写真はイメージです

——あなたは読書をする際、電子と紙をどのように使い分けていますか。

私は普段からたくさん本を読みますが、ホラー小説やSFといった気軽に読める小説は電子書籍を利用しています。一方、内容が複雑で難解な本は、たとえ持ち運びが億劫でも紙で読みます。

大野和基インタビュー・編『自由の奪還 全体主義、非科学の暴走を止められるか』(PHP新書)

——メモを取る際も、ペンで紙に書いたほうが脳に定着しやすいのでしょうか。

そうです。思考力における紙の優位性は、読むことにも書くことにも当てはまります。事実関係を収集するために流し読みするときは、スクリーンのほうがむしろいいかもしれませんが、難しい内容の記事を読むときは、間違いなく紙のほうが脳に定着します。

——日本では教育におけるデジタル化の遅れをとり戻すために、デジタルツールの活用を進めています。これまでのあなたの話からすれば、たんに印刷物の使用を減らせばよいわけではなさそうですね。

世界はいまパンデミックの真っただ中で、教育もリモートにならざるをえない環境にありますね。ただ、学校での対面授業と、家からリモートで学ぶ場合の定着度が同じではないことは明らかです。デジタルツールを教室から一掃せよというわけではありません。でも、紙に書かれた文章とスクリーン上の文章が同じであるともいえない。パンデミックからある程度ノーマルな状態に戻ったとき、とくに内容が難しい授業の場合は、スクリーンではなく印刷物を配布して教えるべきです。

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