一部の人気飲食店が行列に並ばずに食事を楽しめる有料の「ファストパス」の導入を始めている。フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さんは「かつては行列に並ぶことは『体験価値』だった。今は『タイパ』が重視され、お金を払って解決したいというニーズが一定数ある」という――。
「話題のお店の行列に並ぶこと」はレジャーだった
「行列ができる」とは、繁盛の状態を示すバロメータである。
2011年9月、新橋に「俺のイタリアン」がオープンしてたちまち行列ができた。16坪という狭い店で、「立って食べる」というマイナスの条件がありながら、「星付きレストランの料理を2分の1の価格で食べられる」ということから、「それが面白い」とお客は3時間の行列に並ぶことをいとわなかった。
この当時、話題の店で食事をすることがレジャーであり、行列に並ぶことはその一環として受け止められていた。この店はピーク時月商1910万円を売り上げた。
「行列ができる」という客観的な捉え方に対して、主観的な表現は「行列に並ぶ」である。人はなぜ「行列に並ぶ」のか。それは、俺のイタリアンのように3時間並んでも「楽しい(と思われる)新しい体験」をしたいからだ。これが近年では「体験価値」という言葉で収まっている。
有料予約サービスの台頭
一方で、今年に入り飲食業界では「ファストパス」という有料予約サービスが広がってきている。これは、お客が事前に行列のできる飲食店に入店したい日時の予約制のチケット(ファストパス)を手数料を支払って購入することで、その日時に店を訪ねると、「行列に並ぶ」ことなく入店できるというサービスである。
「ファストパス」を展開する「TableCheck」(東京都中央区)は、ゲスト向け空席検索や予約ポータルサイト、飲食店向け予約・顧客管理システムを提供しており、2024年2月に「ファストパス」のシステムを提供し始めた。