インバウンドからの「行列に並ぶ時間が無駄」
同社が「ファストパス」の需要を感じ取ったのは2016年ごろのことであった。同社の予約サービスのユーザーである人気ラーメン店から「中国からのインバウンドのお客様がたくさん行列に並ぶようになった」という声が増えてきたのだ。
これらの中に次のような事例があった。
「行列に並んでいるインバウンドのお客様が『せっかく日本に観光でやってきているのに、1時間2時間と行列に並んでいるのは時間の無駄だ』と。そこで『お金を払っていいから、行列をスキップしたい』という」
訪日客を中心に「行列に並びたくない」という需要が高まり始めたのだ。
このような声を受け、あるラーメン店では、店内の一部の席を「予約席」にして、客単価1000円前後のところ、行列に並ぶことなく予約席に案内する「予約プラン」を3000円で販売。食事に加え、自宅で店のラーメンの味が楽しめる「お土産」まで付けて対応した。
他業界でも「行列スキップ」サービスは定着
飲食店に限らず、日本の消費者を取り巻く商慣習にダイナミックプライシングが浸透するようになった。航空機やホテルでも、空席・空室の割合に応じて料金が変動する料金設定が盛んに行われて、定着していった。東京ディズニーリゾートでは「プライオリティパス」、ユニバーサルスタジオでは「よやくのり」といった、乗車時間を指定予約することで「行列に並ぶ」ことなくアトラクションを楽しむことができるサービスが定着するようになった。
2020年からのコロナ禍は飲食業界にも大打撃を与え、ファストパスの構想は一時見送られたが、コロナショックが明け、インバウンドが復活したタイミングでサービスをローンチ。2024年7月末段階でこのサービスを行っているのは42店舗で、2月からの「ファストパス」の利用者は累計で6万人超となっている。
一体なぜ「行列に並ぶ」という体験価値は失われたのか。