また国防費の支出を国内総生産(GDP)の2%以上にする北大西洋条約機構(NATO)での取り決めに関しても、同盟90/緑の党はその見直しを交渉すると選挙公約に盛り込んでいる。米国との関係にひびが入りかねないばかりか、他の欧州連合(EU)諸国との関係にも暗い影を差すリスクがある主張を、同盟90/緑の党は平然と展開しているわけである。
“まれに見る安定”から混迷へ
同盟90/緑の党の選挙公約は、現実主義的な有権者から見れば十分に原理主義的であるが、それでも党内の左派から糾弾された末に成立した「妥協の産物」であった。そこには、現実路線を強くすれば、与党連合やSPDとの間で明確な立ち位置の違いを示すことができないため、原理主義を修正しきれない環境政党が持つ悲しき性がある。
かつて同盟90/緑の党は、1998年から2005年までの間、SPDと連立を組んだ経験がある。フィッシャー元副首相兼外相など国民的な人気を誇る政治家も輩出、再生可能エネルギーの普及にも大きく貢献した。とはいえ、これらの政策はすでに保守連合やSDPに引き継がれており、同盟90/緑の党ではなければならない理由はない。
原理主義的な主張を展開しなければ、中道の有力政党の間に埋没することになる。とはいえ、過激な主張を展開すればするほど、その実現可能性に疑いを持つ有権者から支持が離れていく。足元の同盟90/緑の党の支持率の失速は、過激な主張を展開する環境政党や民族主義政党が抱える「ジレンマ」をよく示していると言えよう。
いずれにせよ、9月26日のドイツ総選挙は混戦が必至であり、組閣協議は越年も視野が入る。今回の総選挙で首相職から引退するメルケル首相は、4期16年にわたる長期政権を率いてきた。いわばメルケル首相は、ドイツ政治にまれに見る「安定」をもたらしたわけだが、その最後の置き土産が「動揺」だという点が、なんとも皮肉である。
安定の末に動揺が生じるというのは、日本も同様かもしれない。安倍晋三前首相時代は盤石であった自民党だが、次回の総選挙では、コロナ対策の遅れを受けて有権者から厳しい評価が下されると予想される。一方で、受け皿となる有力な政党も存在せず、日本の政治もまたドイツとは異なる形で混迷の度合いを強めること必至である。