毎食オリジナルの言葉で満足と感謝を伝える

同様に、『トトロ』には「ごちそうさま」というセリフがあるが、

Ahh.
(ふう)
I gotta go.
(さて、行かなきゃ)
Gotta go.
(行かなきゃ)

と、みなはぐらかしている(しかたない)。

「ごちそうさま」については、それに相当する決まり文句はなくても、それぞれオリジナルの料理に対する褒め言葉や感謝の言葉を言う傾向がある。ありきたりの言葉としては、

It was so delicious!
(とってもおいしかったです!)
That was a delicious meal!
(おいしいお料理でした!)

などがあるが、もう少しバリエーションをつけて、

What a fantastic meal!
(なんてすばらしい料理!)
We thoroughly enjoyed ourselves.
(心ゆくまで楽しみました!)
It was a very satisfying meal.
(ほんとに大満足でした!)

たくさんいただいてお腹いっぱいだということで、満足と感謝を伝えることもあるだろう。

I’ve had so many helpings! It was delicious.
(たくさんおかわりしちゃいました。おいしかったです)
I ate way too much. I’m really full now.
(食べ過ぎちゃいました。おなかいっぱいです)

こういうバリエーションは、英米文化の「個」志向の表れでもある。「ごちそうさま」という決まりきった言い方では、本当には感謝は伝わらず、本当においしかったという気持ちも伝わりにくいと考えるのが、「個」の文化である。

写真=iStock.com/Rawpixel
※写真はイメージです

日本の場合は、ごちそうしてやったのに「ごちそうさま」と言わなければ、礼を欠いたやつだと思われがちだが、英米文化の場合は、決まった言い方をするほうが、礼を欠いていると思われてしまう可能性があるわけだ。

「おつかれさま」と言いたいのに、英語では伝わらない

「おつかれさま」も、

You’ve got to be tired.
You must be tired.

(ともに「お疲れでしょう」という意味)

などと言えなくもないが、「なに言ってんのこいつ、おれが疲れてるからってなんなんだよ、そんなこといちいち言ってどうするの?」となる可能性もある。

井上逸兵『英語の思考法』(ちくま新書)

「疲れている」ことは「個」たる自分の問題なので、いちいち入ってこられたくないという「独立」願望の強い人もいる。またお年寄りに言うと、「年寄り扱いするな!」というムッとした反応が返ってくる可能性もある。

Well done!とかGood work!となると先生が生徒に、上司が部下に言うような上からの表現になってしまうので、使う状況は限られている。その意味では「おつかれさま」とは違う。

こうして考えると、やはり決まり文句はその文化の様々な考え方を反映しているので興味深いが、英語でそれらに相当する表現がないのは日本人としてはもどかしいこともあるだろう。「おつかれー」などとどうしても言いたくなってしまう。

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