社員を路頭に迷わせない「不幸を生まないリストラ」5カ条

それでは今後何らかのリストラが避けられない場合、会社や経営者がやるべき「不幸を生まないリストラ」の方法もある。以下の5つだ。

① 年功的賃金や年功的昇格・昇進制度からの脱却
② 厳格な人事評価制度の確立と運用による緊張感と意欲の醸成
③ 自社以外でも通用する知識・スキルの修得と「キャリア自立」などの意識改革の推進
④ 職種・キャリア転換教育と常設の早期退職優遇制度(独立・転職支援制度)の制度化
⑤ 「雇用シェア」を活用した在籍出向・転籍出向を促す

なぜ日本のリストラでは中高年社員がターゲットになるのか。希望退職者募集の対象者はほとんどが45歳ないし40歳以上となっているが、理由の一つは給与が高いからである。

年功的賃金制度は、若いときは働きぶりに対して低い賃金を支払い、その分を40代以降に支払う(賃金の後払い)という構造になっている。しかしそれが機能しなくなった結果が高額給与者の中高年の削減というリストラだ。

そうしないためには①のように若いときからスキルと成果に基づいた賃金を支払い、年齢に関係のない昇格・昇進を行う。同時に会社が求めるスキルレベルに達しない、成果を出せない場合は降格や管理職から降りてもらう仕組みを構築するべきだろう。

スキル・成果と賃金が一致していれば仮にリストラする場合、ターゲットが中高年になることは少ないだろう。逆に一定のスキルレベルに達するのに時間を要する若い世代がターゲットになりやすいともいえる。

欧米企業には後から雇った人が先に解雇されるという原則

ちなみに欧米企業には「先任権」(セニョリティ)と呼ぶ、後から雇い入れられた人が先に解雇されるという原則がある。アメリカでもフォードなどの自動車メーカーのレイオフでは労働組合と結んだ労働協約で先任権原則が適用されている。後から雇い入れられた若い人も対象になることによって、労働市場が脆弱ぜいじゃくな日本で中高年だけがリストラされて路頭に迷うという悲劇を回避できる。

スキル・成果と賃金の一致を十全に機能させるには②の厳格な人事評価制度の確立が不可欠だ。企業によっては上司が部下を厳しく評価するのを嫌がり、5段階評価(S、A、B、C、D)の真ん中のB評価をつけてしまう“中心化”傾向が蔓延しているところがある。

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一般的にリストラの際に「辞めてほしい」人は人事評価がベースになるが、評価が低い社員が少なければB評価もターゲットにされる。

ところが本人は「B評価で会社に貢献しているのになぜ俺が辞めなければいけないのか」とショックを受ける。上司がよかれと思ってつけた評価があだとなり、結果的に「今のままではリストラされるかもしれない」という予見可能性を失わせてしまうのだ。

そのためにも厳格な人事評価制度を確立し、「あなたの今の働きぶりが続けば降格され、給与が下がりますよ」と、イエローカードを突きつけ、緊張感を持たせることで仕事への奮起を促すことが重要だ。

企業の人材育成やスキル教育の多くは自社の業務を習熟させるために行うのが一般的だ。しかし自社のみに通じる特殊スキルに焦点が当てられ、③のように他社でも活用できる普遍的スキルの修得には無頓着だった。その揚げ句に会社を退出させるのは、泳げない社員を大海に放り出すようなものである。

たとえば大企業の人事部員は一定の人事業務には精通していても、同じ管理部門の経理・財務に通じている人は少ない。人事の仕事以外に財務・経理や総務の仕事も知っていれば、拾ってくれる企業はいくらでもある。

そのためにも若いときから個人としてどういうキャリアを築きたいのかを自ら考えさせ、それに向けたスキルや知識の修得を支援するプログラムを用意し、「キャリア自立」を促すことが重要だ。

会社の寿命は20年と言われるが、仮に倒産しても社員が路頭に迷わずに外でも“泳げる”スキルを提供することはCSR(企業の社会的責任)の観点からも企業の責務であるべきだ。