孤独死は高齢者だけの問題ではない。ノンフィクション作家の菅野久美子さんは「現役世代は地域とのつながりが薄い。職を失うと、すぐに孤立というブラックホールに落ちてしまう。私はある50代男性の孤独死現場が忘れられない」という――。
壁に手をついてうなだれる男の影
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孤独死した人の8割がセルフネグレクトに陥っている

「また、この季節が近づいてきた」

特殊清掃業者たちの言葉だ。梅雨の訪れとともに、特殊清掃の依頼件数は増え続ける。じめじめした梅雨のこの時期からうなぎ登りとなり、7、8月の夏場にはその件数はピークを迎えるのだ。

その依頼のほとんどを占めるのが孤独死だ。夏とは、すなわち、孤独死が大量発生する季節なのである。ニッセイ基礎研究所の2011年3月のレポートによると、年間3万人が孤独死していると言われている。しかし、私は長年の取材を通じて、実際の孤独死はもっと多いのではないかと感じている。

一部の特殊清掃業者は、梅雨のこの季節からフル稼働となる。3カ月間ほど休みなく、昼夜ぶっ通しで仕事をする。夏場だけで1年分の収益を上げる業者もいるほどだ。大量の汗をかきながら、ひっきりなしに仕事の依頼を受け過酷な現場と向き合い続ける。そして、死臭を緩和する専用のオゾン脱臭機は、現場で休みなく回り続ける。

夏場に孤独死が増えるのは、熱中症になりやすいからだ。前掲のニッセイ基礎研究所によると、孤独死した人の8割は、自分で自分の体を痛めつけるセルフネグレクト(自己放任)に陥っている。つまり、「ごみ屋敷」のような家に住んでいるのだ。すると、エアコンは使えない状況になっていることが多い。さらに室内に幾層にも積み重なったプラスチックなどのごみは熱がこもりやすく、その中で寝起きする人の命をも容易に脅かす状態へと変容する。