このとおり、苦言と生ぬるい警告が続くだけの公聴会は、期待はずれの結果に終わった。この状況に何か手が打たれるにしても、どういう措置が講じられるのか定かでないが、アマゾンなり、他の怪物企業なりが政府の規制で大幅に事業を制限される日が来ると思っている人がいるなら、もうしばらく時間がかかると考えたほうがよさそうだ。

パンデミック収束まで議論はお預け状態

パンデミック前の世界では、企業の独占に反感を持つ社会の空気が醸成されていて、規制当局の調査も活発だった。だが、パンデミックになってからは、アマゾンなどの企業が、消費者にとっても出店業者にとっても、回り回って各国の経済にとっても、なくてはならない頼みの綱となった。

通常、政治家が批判するのは、有権者の顔色をうかがいながらのパフォーマンス的性格が強いことを考えると、少なくともパンデミックが収束するまで、巨大テクノロジー企業は腫れ物にさわるように扱われるはずだ。

今後、ますます不可欠の存在になるだろう。今、どの国の政府も、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした混乱の最中にあり、他にもっと大切な仕事がある。

アマゾンが雇用の受け皿になっている事実

しかも、政治家が下心を持ってアマゾンを見れば、そんなに悪者に見えない可能性もある。

アイルランドでは、同社がAWSのクラウドコンピューティング事業に首都ダブリンで1万6,000平方メートル弱の用地を確保し、2年間で5,000人を雇用する計画を明らかにした。カナダでは、現地事業に新たに5,000人の雇用計画を発表している。イギリスでは、同様の計画で1万5,000人の新規雇用が明らかになった。この手の話はまだまだ続く。

エンターテインメント業界専門紙『バラエティ』の2020年7月号によると、アマゾンは同年3月以降、新規に17万5,000人の雇用を生み出し、このうち12万5,000人を正社員に転換するという。

その背景には、ユナイテッド航空からメイシーズ百貨店までさまざまな企業が大規模な人員削減に踏み切り、数千万人の失業者が出ている現実がある。欧米諸国の政治家にしてみれば、強力な雇用創出マシンであるアマゾンのご機嫌を取っておいたほうが得策だし、パンデミック中に人々が必需品の入手先として頼れる数少ない補給線であることも証明された。

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巨大IT企業に絡めとられる消費者

だとすれば、新型コロナウイルスは、単にきたるべき未来を手前にぐっと引き寄せる役割を担っただけではない。まったく異なる小売りの未来へと続く類いまれな入り口にもなったのではないか。つまり、こうした怪物企業が世界中の消費者の暮らしに有無を言わさず深く入り込んでいくための玄関口である。

停電になって初めて電気に大きく依存していることを痛感するのと同じように、今後こうした小売業者が一種のライフラインのようになっていくはずだ。すると、怪物企業の規模もこれまでとは比べものにならないほど大きくなるだけでなく、もっとうまみのある新たなカテゴリーに触手を伸ばすための確かな足場を築くことになる。