※本稿は、福田智弘『深夜薬局』(小学館集英社プロダクション)の一部を再編集したものです。
眠らない街の、眠らない薬局
JR新宿駅東口。駅の階段を上がり、北の方角へと歩く。「歌舞伎町一番街」と書かれた巨大な赤ネオンをくぐると、急に、ぱあっと明るい街並みが広がる。
通りの左右には、居酒屋やキャバクラ、カラオケ店などが立ち並ぶ。観光客らしき外国人ファミリー。これから飲む店を探すカップル。仕事帰りのサラリーマン……。2019年、師走の街並は、ひとであふれていた。とてつもなくさわがしい。
そのまま歩を進め、新宿コマ劇場跡地にそびえ立つ新宿東宝ビルを越える。歌舞伎町1丁目と2丁目を南北に分ける花道通りを渡ると、雰囲気はスッと変わる。ラブホテルのネオンが光り、ホストやキャッチに声をかけられ、3メートルと静かに歩けない。にぎやかな観光地から、よりディープな「夜の街」が近づいてくる。
本書の舞台はこちら側——花道通りの北側、「夜の街」にある。そして、主人公は、いつものようにそこに立っている。
ガラス張りの店先。上階に入っている風俗店のこうこうと輝く看板が目に入る。2階はホストクラブで、3階はキャバクラだ。視線をおろし、となりの建物を見ると「ニューハーフクラブ」と看板が出ている。まわりを「夜の仕事」に囲まれている。
夜8時ちょうど。ガラス張りの店内の電気がパッとついた。引き締まった身体の短髪の男性の姿。視線を右に動かすと、いくつかの小さな箱が置かれた棚、そして小ぶりなドリンクが並ぶ冷蔵ケースが見える。
5人も入ったらいっぱいになりそうな、こぢんまりとした店内。殺風景にも思える内装だが、商品につけられたPOPや壁に貼られた新聞の切り抜きなどから、なんとなく店主の気さくさを感じる。
パリっとした白衣が見えた。「ニュクス薬局」とやさしいフォントで書かれた看板。
そう、ここは「薬局」なのだ。