「ただ、話を聴くだけです」

ニュクス薬局には、今日もなにかしら、「困りごとを抱えたひと」がやってくる。

まず、薬局だから当然、身体の調子がすぐれないひとが駆け込んでくる。

「処方箋の薬、お願いします」
「こういう症状があるんだけど、病院に行ったほうがいいですか?」
「風邪っぽいんですけど、市販薬ください」
「二日酔いしんどいよ、いいドリンクないかな~」

そして、こころの調子がすぐれないひとも、駆け込んでくる。

「なんかちょっとしんどくて」
「困ったことになっちゃった」
「じつはこんなことがあってさあ~」

けれど中沢さんは、そのふたつを分けて考えることはない。なぜなら、心身のどちらかだけ元気で健康、などはありえないから。

福田智弘『深夜薬局』(小学館集英社プロダクション)
福田智弘『深夜薬局』(小学館集英社プロダクション)

「たとえば風邪をひいて高熱が出たら、きついとか苦しいだけじゃなく、不安になりますよね。それで人恋しくなったりするでしょう? こころと身体はセットなんです」

歌舞伎町。この不夜城ではたらくひとたちの中には、職業柄メンタルバランスを崩しやすく、不眠やうつ症状を訴えるひとがかなりいる。それは開局前から、中沢さんはある程度予測していた。

「だって性風俗って、若い女の子が好きでもないおじさんの相手をしたりするわけですよね? たとえ望んではじめたとしても、病んじゃってもおかしくない。キャバクラだってめんどくさい客はいるし、ストレスはかかりますよ。私だって酔っ払い、イヤですもん」

では曇った表情をしてドアをくぐってきたひとに、中沢さんはどう応対するのだろうか。薬剤師ではあるけれど、精神科医でもなければカウンセラーでもない。こころの専門家ではないのだ。

「特別になにをするってわけじゃなくて」と中沢さんは言う。

「ただ、話を聴くだけです」

(後編に続く)

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