六本木や渋谷からの「遠征組」も

その灯台のあかりに導かれるように、夜間にもかかわらず、たくさんのお客さんがひっきりなしに訪れる。

さまざまなひとが、いろいろな目的でやってくる。病院の近くや商店街に並ぶふつうの調剤薬局とは客層がかなり違うし、化粧品や洗剤といった日用品を求め、幅ひろい年代の女性が集まるドラッグストアとも、明らかに違う。

やはり多いのは「夜の仕事」に携わるひとだ。ホスト、バーテンダー、キャバクラ嬢、ガールズバーの店員、性風俗店従事者……お客さんの7~8割、常連客のほとんどが、こうした仕事に就いているひとたちだ。滋養強壮剤、キヨーレオピンを出勤前に飲みに立ち寄る常連客までいる。

ただ、ちょっと意外なことを店主の中沢さんが告げた。

「彼らが歌舞伎町ではたらいているかどうかは、わかりません」

六本木や渋谷といったほかの街からも、「夜の仕事に携わるひと」が集まってくるらしい。ほかの街で夜の仕事をしているひとは、勤務が終わったあと歌舞伎町にやってきて遊ぶ。けれど歌舞伎町ではたらいているひとは、「外」に出ない。仕事後もそのままこの街に留まって遊ぶことが多いようだ。

つまり、歌舞伎町には、歌舞伎町だけでなく、他の「夜の街」ではたらいているひとびとまで集まってくる、というわけだ。そして、それらのひとびとの多くが灯台の明かりに導かれるように訪れる場所。それが「夜の女神(ニュクス)」という名の薬局、である。

多忙なビジネスパーソンも頼りにする「街の薬屋」

……とはいえ、ニュクス薬局は、「夜の仕事に携わるひと」専門の店というわけではもちろんない。立派な調剤薬局であり、街の薬屋だ。

医者から渡された処方箋を持って残業帰りに立ち寄る多忙なビジネスパーソンもいれば、他の薬局が寝静まった深夜に

「突然、具合が悪くなったんです。なにかいい薬はありませんか」

と顔をゆがませて駆け込んでくるひともいる。

「明日手術を控えているのに、飲むべき薬をもらい損ねてしまった!」

と滑り込んできたひともいた。

水商売の従業員など、ふつうの薬局が開いている時間には活動していないひとはもちろん、昼間は仕事が忙しく病院や薬局などに行く時間がとれないひとや急な体調不良に陥ったひとたちが、助けを求めてドアをくぐる。「それこそ、いろんな街から来られますよ。起きている時間帯に開いている薬局やドラッグストアがなかったり、開いていても、薬剤師や登録販売者がいなかったりしますから」