※本稿は、ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
独占禁止法違反でアマゾン包囲が進む
「その規定に違反したことがないとは保証できない」
シアトルの本社からリモートで米議会下院に設置されたモニターに現れたジェフ・ベゾスは、そう説明した。ベゾスの言う規定とは、プライベートブランド(PB)の商品開発に外部事業者のデータを利用することを禁じたアマゾンの社内規定のことである。質問したのは、アマゾン本社のあるシアトルも含めたワシントン州選出のプラミラ・ジャヤパル下院議員だった。
2020年の夏に米議会下院司法委員会はデジタル分野の競争環境について大手テクノロジー企業のグーグル、フェイスブック、アップル、アマゾンの4社を呼んで聴取するマラソン公聴会を開催し、各社に対して、倫理や競争上の問題について、議員から次々に厳しい質問が飛んだ。
ジャヤパル議員の追及は、そのうちのベゾスに対する質問の一コマだ。これに対してベゾスは、アマゾンが開発するPB商品を決定する際、同社通販サイトでの商品カテゴリーごとの「集計データ」以外を従業員が見ることはできない社内規定があると主張した。
出店業者の販売データはアマゾンに筒抜け?
小売コンサルタントとして30年近くアマゾンの一挙手一投足を見守ってきた私に言わせれば、ベゾスのこの回答は馬鹿馬鹿しい。
アマゾンのPBで販売する商品を決定する際、同社通販サイトに出店する外部事業者の販売データを略奪的な目的で利用していたかどうかに質問が及んだために、ベゾスがはぐらかそうとしたことは明らかだ。長年に及ぶ事業のなかで、その「社内規定」なるものが何度も破られているかどうか定かでないとベゾスが言うのは、笑止千万である。
しびれを切らした別の議員が、「その『集計データのみ』とする社内規定は、特定カテゴリーで少なくとも2つの競合商品があれば、仮にそのうち一方が圧倒的なシェアを確保している商品だとしても、アマゾンはカテゴリーを問わずそのデータを自由に閲覧できると言っているのと同じではないか」と、ベゾスに詰め寄る場面もあった。