※本稿は、ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
SFの世界が現実に……政府も手を出せない巨大企業
未来を描いた映画には、ごく少数の邪悪な巨大企業に支配された暗黒のディストピアが人類を待ち構えていて、人々の生活が至るところでコントロールされているといったストーリーが少なくない。
『ロボコップ』(1987)のオムニ・コンシューマ・プロダクツ社しかり、『エイリアン』(1979)のウェイランド・ユタニ社しかり、『ブレードランナー』(1982)のタイレル社しかり。こうした未来を牛耳る企業は、世界の中枢まで深く食い込んでいるだけに、超大国に活動を邪魔されることもない……。そんな筋書きだ。
パンデミック後の小売業界では、デジタル格差を飛び越えたその先で、こうした企業はもはや小説や映画だけの話ではなくなっている。つまり現実になっているのだ。
パンデミックの世界に君臨する4大企業
小売業者にとって、新型コロナウイルス感染症は隕石の衝突のようなものだった。100年に一度あるかないかの存亡の危機をもたらす出来事であり、小売業界を覆う大気の化学組成まで変えてしまった。その結果、小売業界に生息していた多くの種が絶滅し、残った種による死に物狂いの適応行動が始まった。
宇宙のビッグバン直後にも似たポストコロナという混沌とした状況から、これまでに見たこともないような新しい捕食者が誕生した。それは遺伝子の突然変異によって小売業界に生まれ落ちた新しい種で、天敵も外部からの脅威もない。
自然界でこうした種は、食物連鎖の頂点に立つ捕食者(頂点捕食者)だ。小売りの世界では、アマゾン、アリババ、京東商城(JDドットコム)、ウォルマートと呼ばれる。