ドイツ人の冷静な判断

ID.3高性能版は77kWhのバッテリーを搭載しているが、30分で4分の1程度しか充電できないわけだ。そのうえ航続距離の長いEVはバッテリーをたくさん積んでいるのでその分重くなり、消費電力も大きくなる。30分充電しても100km以下の航続距離しか稼げないのだ。そうなるとかなり頻繁な充電を強いられることになる。

EVで遠出した場合は、大出力の急速充電器(まだ少ない)がある場所を探す必要があるが、ID.3の急速充電対応は最高性能版でも125kWまでなので、150kW以上の大出力充電器が見つかっても30分の充電では容量の3分の2程度しか充電できない。出かける前に綿密な計画を立てないと痛い目に遭うだろう。

こうして考えると、現時点でEVを買う場合、セカンドカーとして航続距離は短くても小さくて安価なe-Up!を買うのはきわめて合理的な選択なのである。

写真=iStock.com/Sjo
フォルクスワーゲンのe-Up!

補助金の額は一定なので、安い車のほうが価格的アドバンテージは大きくなり、e-Up!の場合はガソリン車のUp!にかなり近い金額で購入できる。前述の通り、都市部の足としては小さいe-Up!のほうが使い勝手も良く、ガソリン車に対して使用上の優遇措置もある。

さすがドイツ人、冷静な選択をしているのだ。

日本でEVを買う経済合理性は…

ひるがえって、現在日本でEVを買うことは合理的だろうか。

日本の場合、EV新車購入で最大80万円の補助金を得ることができる。自治体によっては独自の補助金を出しているところもあり、たとえば東京都は60万円が出る。合計140万円もの補助金が出れば内燃機関車との価格差はかなり少なくなる。

しかし、問題は売却時だ。現在中古車市場でのEVは不人気で(バッテリーが劣化しているかもしれない中古EVを買いたい人が非常に少ないため)、値落ちが非常に大きい。電気代で節約した分などすぐに消し飛んでしまうような価格差である。

さらに5年後には現状のバッテリーよりはるかに高性能な全固体電池が市販化されているかもしれず、その際には旧世代バッテリーのEVの価値は大幅に下がってしまうだろう。

全固体電池でなくても、ここ数年でバッテリーの性能や価格は大きく改善される可能性が高く、旧型の下取り価格が大きく下がる可能性は非常に高い。つまり、いまEVを買う金銭的ベネフィットは全くない。さらにはドイツとは異なり、日本では使用時におけるEVの優遇措置もない(低燃費ハイブリッド車と同じ扱い)。