食品の品種改良はもともと不自然
さて、あなたは「遺伝子組み換えでない」という表示を見て、食品を買ったことがあるだろうか?
世界中の期待を集めるゲノム編集農水産物だが、広く普及するには、培養肉と同じ課題がある。もちろん、消費者の理解だ。規制については世界各国で議論されているが「遺伝子組み換え食品」への抵抗はもともと強い。
遺伝子組み換えについてのアンケートで、「農作物や家畜へのゲノム編集に関する一般市民の意識調査」によると、「ゲノム編集された農作物を食べたくない」と答えた人は4割だった。魚や家畜ならばなおさらだろう。すでに2019年から、ゲノム編集で開発した食品の販売や、流通に関する届け出の制度が厚生労働省で始まっているが、反応は鈍い。この届け出は、消費者の不安を取り除くのが狙いだが、届け出も表示も任意で、義務ではない。
ただ、我々は少し考える必要があるだろう。遺伝子組み換え食品について、本当に正しい理解は、「短期間で起こした変異だから、いいかもしれないし、悪いかもしれないし、わからない」である。遺伝子の変異は、自然界でも長い時間をかけて起こっているものだ。そして、あらゆる食品の品種改良は、この変異を人為的に長期間で行っているものだ。ゲノム編集は、同じことを短期間で起こしているに過ぎない、という発想もできる。
違和感は時間が解決する
人工肉だけでなく、昆虫食もこれから普及するだろう。
昆虫食は、欧米を中心に食品の販売が始まっているが、コオロギやミルワーム(甲虫の幼虫)を使うものが多く、見た目や独特の風味のため敬遠する人も少なくない。
確かに、気持ち悪いと思ってしまうのはしかたないだろう。そうした意見を踏まえて、味のクセが少なく、うまみがあるカイコのサナギをフリーズドライ製法で粉末にし、ドレッシングやスープなどにする開発も進んでいる。
まとめると、2040年には世界の肉の60%が、動物本来の肉ではなく、培養肉や植物からつくられた人工肉に代わる。動物由来でも、遺伝子操作による可能性も大きくなる。不自然に見えるかもしれないが、おそらくそれは時間が解決するだろう。2020年時点の畜産や魚の養殖も、100年前の人にしてみれば不自然かもしれないことを忘れてはいけない。