アップルからの思いがけない連絡が経営を変えた

デモも行い、製品についての詳細なブリーフィングもしましたが、ノキアの購買担当者は我々の製品に見向きもしません。あちこち弱い点がある、改良してきたら購買を考えてみてもよい、といった反応です。

なんとしてもノキアにモバイルデバイス用CPUを買ってもらおうと2004年から2006年まで努力を続けましたが、はかばかしい進展は見られません。モバイルデバイス用CPU生産は中断すべきだと主張していた人々は、最初から私の判断が間違っていたと指摘し始めます。私は社内で窮地に立たされました。

ところが、思いがけなくアメリカのアップル社の開発責任者から連絡が来たのです。モバイルデバイスに搭載するCPUについての問い合わせでした。

正直なところ、そのときはなぜアップルがモバイルデバイスに関心を持つのかと首をかしげました。アップルはコンピュータの会社だったからです。コンピュータ会社が携帯電話を作るなど、想像もできないことでした。アップルに試作品を送ったところ、こちらの事情に合わせて少し設計を修正してほしいと言われました。

なぜその部品が必要なのかと何度も尋ねましたが、アップルの担当者ははっきりとした回答をくれません。その答えは、2007年に世界中が知ることになりました。わが社が作ったモバイルデバイス用CPUを、アップルが携帯電話に使用したのです。

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まさにそれが世界初のスマートフォン、アップルのiPhoneでした。

このときから、サムスン電子のモバイルデバイス用CPU生産部署は、羽が生えたように売上を伸ばします。システム半導体も成長を見せ、半導体メモリと共にサムスン電子を世界1位企業へ押し上げる契機となりました。

「選択と集中」を実行したおかげで生き残ることができた

実際、運が味方してくれたところもありますが、現況を綿密に検討して革新的な五つの事業部に「選択と集中」をしたのが良かったのでしょう。将来はモバイルデバイスが主流になるという確信のおかげで生き残ることができたのです。

この過程を通じて、私は自分に足りない点が何かを学ぶことになりました。

スティーブ・ジョブズが初めてiPhoneのプレゼンテーションをしたシーンをご記憶でしょうか。ジーンズに黒いタートルネックセーター姿の彼がiPhoneという新製品を紹介したあの現場に、私は招待され、前の座席に座っていました。新製品の主要部品であるメモリを含む半導体供給会社の代表として招待されたのです。

あの歴史的な現場に出席するまで、私はアップルが携帯電話市場に参入するとは予想もしていませんでした。ところがスティーブ・ジョブズが新製品を紹介するすぐ前に座って、その予想もしなかったことを直接目撃することになったのです。

実に驚くべきプレゼンテーションでした。多くの人々があの歴史的瞬間について語りますが、本当に印象的な時間でした。何より私を含め、あの現場にいたすべての人に「ああ、この製品がとても欲しい、ぜひ買いたい」と思わせてしまったのですから。