日本に研究開発拠点を設置すると発表
世界の半導体産業に重大な地殻変動が起きている。2020年春先以降、新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界的にデジタル・トランスフォーメーション(DX)の流れは加速し、半導体業界の趨勢は世界経済全体に大きな影響を与えている。回路線幅5ナノ(10億分の1)メートルの最先端から汎用型に至るまで半導体需要は拡大しており、世界的に需給はかなりタイトになっている。
そうした状況下、半導体供給者としての存在感を発揮しているのが半導体受託製造企業(ファウンドリー)最大手の台湾積体電路製造(TSMC)だ。TSMCは台湾の株式インデックスである“台湾加権指数(TAIEX)”を構成する最大の企業である。同社はわが国の企業と連携して、茨城県つくば市に研究開発拠点を設立する方針を発表した。最先端の半導体製造技術を確立し、韓国サムスン電子や中国勢との競争をより有利に進めている。
その取り組みを米国も重視し始めた。バイデン政権は半導体に加え、レア・アース(希土類)、大容量バッテリー、医薬品の4品目を戦略物資に指定し、透明かつ安定した調達を目指す。今後、半導体のサプライチェーンを中心に日米台の連携は強化されるだろう。それは、わが国の企業がさらなる成長を目指すための追い風といえる。
「設計・開発」と「生産」の分離が進む半導体産業
リーマンショック後の世界経済を支えた主な要因の一つは、米国のIT先端企業のイノベーションだ。大きかったのがアップルの“iPhone”のヒットだ。それは、スマートフォン需要を生み出し、アマゾンなどITプラットフォーマーの成長を勢いづけた。また、スマホの出現はSNSという新しいビジネスモデルの創出も支えた。需要の獲得と創出のためにデータの重要性が高まり、その保存と分析を支える半導体への需要は加速度的に高まった。それが、21世紀が“データの世紀”と呼ばれるゆえんだ。
アップルなどは自社製品のより良い機能の発揮を目指して、半導体の設計と開発に取り組んでいる。ファウンドリーであるTSMCはその生産を受託し、世界の半導体産業全体で設計・開発と生産の分離が勢いづいた。特に、TSMCは回路線幅の微細化を強力に推進し、米インテルや韓国サムスン電子との差は拡大しているように見える。