麻生太郎と米国紙記者との珍妙なやりとり

ウェブサイトへの出稿についても、時代遅れを感じたことがあった。米副大統領のマイク・ペンスが2017年4月に来日した際、カウンターパート(交渉相手)の麻生太郎と共同記者会見に臨んだことがあった。ここで麻生と米国紙の記者の間で珍妙なやりとりが展開された。

秋山信一『菅義偉とメディア』(毎日新聞出版)

ワシントン・ポストの記者は、トランプが大統領選で在日米軍の駐留経費の負担増を日本に求めていたことに触れ、「要求に応えるためにどのような準備があるか」と質問した。麻生は「私が英語を聞き取れているといいのだけど」と英語で断った上で、「日米経済対話においてTPP(環太平洋パートナーシップ協定)が枠組みの議論の基本になるかという話をしたんだね?」と見当外れの内容を日本語で記者に問い返した。

同時通訳を聞いた記者は大きく首を振った。麻生は「違う? 私の聞き取り能力がよくないようだ」と英語で述べ、再質問を促した。記者はゆっくりと英語で再質問し、麻生もマティス国防長官が来日時に日本の経費負担を評価したことに言及するなどして質問に答えた。

英語に自信を持っている麻生が同時通訳を聞かなかったために恥をかいたのだが、この場面を書いて出そうと思ったら、政治部内では「紙面がきつい」とボツにされた。他に優先すべきニュースがあるなら仕方がないと思い、「それならネットだけでも載せてください」と言うと、「ネットに出すのはよほどのニュースだけだ」という答えが返ってきた。

色濃かった「ネットより紙面を重視する文化」

読者が紙からネットにシフトしていく中、紙面の枠にとらわれずにネットにもどんどん原稿を出していくのは当時からすでに当たり前になっていた。ところが、政治部にはベテラン記者が紙面を前提に出稿計画を決める文化が色濃く残っていた。

さすがに3年半たった今は、若手を中心に「ネットへの積極出稿」「写真や動画の撮影」といった意識が高い記者も出てきてはいる。組織としても従来のやり方に固執せず、時代に合わせて、意識や手法を柔軟に変化させていく必要がある。

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