チーム取材の功罪

政治部に異動してまず戸惑いを覚えたのは「チーム取材」のあり方だった。

それまで、特定のテーマで取材班を組むことはあっても、記者は基本的には個人で動くものだと思っていたが、政治部は常日頃からチームで動いていた。互いに情報を共有しながら政官界を取材し、その時々の焦点を見定めながら、取りまとめ役を担うキャップらが記事を書いていく複数の記者が集めた情報を合わせて記事にすることも日常的に行われていた。

メモをとる記者
写真=iStock.com/shironosov
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情報が多ければ多いほど、多面的に深掘りできるのはチーム取材のメリットだ。一方で、自己完結しないためにどこか他人任せになってしまう面がある。どんな課題があって、詰めるためにはどこに取材し、どんな情報を集めて、どういうテーマや記事にすればよいか考えるという「基本」がおろそかになりがちだ。

そんな弱点が露呈した出来事があった。

2020年2月27日、首相官邸では政府の「新型コロナウイルス対策本部」の会議が開かれていた。会議の終盤、メディアが入る公開部分で締めくくりのあいさつをした首相の安倍から驚きの発表がなされた。

「全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校に、来週3月2日から春休みまで臨時休業を行うよう要請します」

信頼を置く官房長官の菅や副長官の杉田和博とも「全国一斉」の点は十分すりあわせず、文科大臣である側近の萩生田光一の反対も押し切って、トップ判断で「全国一斉休校」を要請したのだった。

会議室を出た記者たちはスマートフォンで上司に一報を入れながら、官邸の廊下を駆けていた。インターネットやテレビで速報が流れ、社会全体に激震が走った。

「適切とお考えでしょうか?」

その約10分後だった。SPに先導された安倍が退邸するためにエントランスホールに下りてきた。安倍は一方的に「一斉休校要請」を発信しただけで、判断の根拠や休校中の対応については何一つ説明していなかった。退邸のタイミングは安倍に直接問いただす、この日最後のチャンスだった。ところが、安倍を待ち構えていた各社の総理番の代表からは全く別の質問が飛び出した。

「秋葉(賢也首相)補佐官が昨日、政治資金パーティーを行っていたことに対して受け止めをお願いします」

立ち止まりもせず、「ご苦労様」とだけ言い残して安倍は官邸を去っていく。

「適切とお考えでしょうか?」

総理番の第2の問いが官邸のホールにむなしく響いた。

菅が執務室から出てくるのを待ちながら、横目で安倍と総理番のやりとりを見ていた。ぶら下がり取材の準備をしていたのだから、当然、一斉休校要請について聞くのだと思っていただけに、誰も聞かなかったことに拍子抜けしてしまった。

自分で考えて動く力を失っている

新型コロナ対応に追われている中、首相補佐官が感染拡大の懸念が強い立食形式で政治資金パーティーを開催した妥当性は問われてしかるべき問題だ。事前に秘書官を通じて、このパーティーについて取材を要請していた事情もあった。それでも、まず聞くべきテーマは休校要請だったはずだ。