その結果、ゲーム感覚で株を買う個人投資家が増えた。米国の個人投資家の多くは、SNSの掲示板「レディット」に開設された“wallstreetbets(WSB)”のコミュニティーで他の投資家の行動に関する情報を収集する。その上で、彼らは手数料無料のネットブローカーである“ロビンフッド”のアプリを用いて株式を売買する。
その際、企業の業績などよりも周囲の投資行動を基準にする個人は多い。その結果、2020年3月中旬以降のGAFAMやテスラ、11月以降の航空関連などの株、本年1月下旬のゲームストップ株など、特定の株式に買いが集中し“買うから上がる、上がるから買う”という動きが鮮明化した。株式市場における個人投資家の影響力は高まっている。
過去の「仕手戦」とは違う2つの点
レディットへの投稿などを通して一部の個人投資家は結託した。その結果、米国の個人投資家は一気呵成にヘッジファンドが空売りした銘柄を買い上げた。それが追随の買いを呼んだ結果、ヘッジファンドは空売りした銘柄を買い戻さざるを得なくなった。それが1月下旬のゲームストップ株などの高騰をもたらした。
一部メディアはその状況を“個人投資家とヘッジファンドの対決”と報じた。確かにそう見える側面はある。ただし、ヘッジファンドが特定の銘柄を空売りする一方で、他の投資家が異なる見解に基づいてその銘柄を買い、結果として投資家同士の対決(仕手戦)が起きたことは過去にもある。
今回のケースが従来と違う点は2つある。まず、SNSを通した個人投資家の結託は新しい動きといえる。そのため、SNS上で“ヘッジファンドを締め上げろ”というフレーズが拡散し、個人投資家が同調して特定銘柄を買い上げたことに政府や監督官庁がどう対応すべきか、経済、金融や法律の専門家で多くの見解が交わされている。いつ、誰が、どのような投稿を行い、それが群集心理を高める要因になったかに関する調査も進むだろう。
手数料無料で素人でも参入しやすい
もう一つが、ロビンフッドの影響力だ。同社は、手数料無料の金融商品取引アプリを提供する。アプリの提供という点で、同社はITプラットフォーマーの一角に位置付けられる。手数料が無料であることが誘因となり、十分な知識を持たない人も含めて、多くの個人投資家が現物株や金融派生商品を用いてヘッジファンドが空売りしていた銘柄の買い持ちポジション(持ち高)を急速に積み上げた。