個人投資家とヘッジファンドの対決

1月下旬、米国の株式市場で個人投資家は、ヘッジファンド(機関投資家のひとつ)が空売りしたゲームストップ(ゲームソフト小売り)やAMCエンターテインメント・ホールディングス(映画館チェーン運営)などの株を買い上げた。個人投資家の買いの勢いは強く、ヘッジファンドは損失を覚悟して空売りした株を買い戻さざるを得なくなった。その状況は、個人投資家とヘッジファンドが“対決”した印象だ。

米ウォール街にあるニューヨーク証券取引所=2020年11月16日
写真=AFP/時事通信フォト
米ウォール街にあるニューヨーク証券取引所=2020年11月16日

そもそも、今回の抗争は一種の“マネーゲーム”といえる。米国を筆頭に各国の金融市場では、カネ余りと先行きへの楽観に支えられて、短期的な利得を目指して投機的な取引を行う個人投資家が増えている。SNSで周囲の投資行動を確認し、他者が買う銘柄を買う個人投資家は多い。1月下旬、買いが買いを呼び、ゲームストップ株は高騰した。銀やビットコインの価格上昇にも、ゲーム感覚で取引を行う投資家の存在が影響している。

冷静に考えると、そうした行動は持続困難だ。マネーゲームが広がると、買いとは逆に、誰かの売りが他の売りを誘発しやすくなる。状況によっては、金融市場の不安定性が高まり、実体経済に無視できない負の影響が及ぶ恐れがある。その点で金融市場の安定と公平性の向上に向けたルール策定の重要性は高まっている。

強気な投資家によるマネーゲーム

1月下旬の米国の株式市場では、特定企業の株価が企業や経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)から大きく乖離かいりして動く場面が見られた。ゲームストップ株はその代表だ。1月21日の引け値から月末までの間に同社の株価は7.5倍も上昇した。そのほか、ヘッジファンドなどが業績懸念を理由に空売りしてきた複数の企業の株価が、1日で数十パーセント、あるいはそれ以上に上昇する場面があった。その一方で、米国の株式市場全体で上値は抑えられ、市場全体の変動性は高まった。

その原因は、マネーゲームだ。マネーゲームとは、自らの行動が市場全体の流れを決するといわんばかりに投資家が強気になり、短期目線で売買を行って利得確保を目指す行動が増える状況をいう。足許、米国を筆頭に株式市場の一部ではマネーゲームの兆しが出ている。

“カネ余り”と“先行きへの楽観”で買いが集中

それを支えるのが、“カネ余り”と“先行きへの楽観”だ。カネ余りは、FRB(連邦準備理事会)など世界の主要中央銀行による利下げや量的金融緩和策によって生み出された。米国政府の現金給付もカネ余りを支えている。また、先行きへの楽観は世界経済のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を支えるITプラットフォーマーの成長期待やワクチンへの期待がもたらした。