制限をかけるフランス、反発するパリとマルセイユ

感染対策の強化をめぐっては、欧州の各国でそれを重視する中央政府(国)と社会経済活動に軸足を置く地方政府(都市)との間で軋轢が生じている。例えばフランス政府は、全土の再ロックダウンに先行して感染拡大が顕著である首都パリと南部の主要都市マルセイユの飲食店の営業に対して強い制限をかけたが、両市の市長はこの措置に対して公然と反発、対立を深めた。

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同様の事態は欧州各国で生じており、スペインでも全土に先行して首都マドリードに非常事態が宣言された際に、感染対策を重視するサンチェス政権と社会経済活動を優先するマドリード州政府との間で対立が生じた。日本では春先の第1波の際、社会経済活動を重視する政府と感染対策を優先する都道府県との間で軋轢が生じたが、その真逆の関係が生じている点で興味深い。

これまでの強い行動制限で、欧州の人々は強いストレスを抱えている。先に述べたように、景気の悪化を受けて雇用を失った人も数多い。夏場に行動制限が解け、長いトンネルにようやく光明が差した矢先に再び新型コロナウイルスの感染が拡大し、行動制限が強化されてしまった。再度の制限措置に対して欧州の人々がどれだけ落胆しているかは、察するに余りある。

一部は暴徒化、社会経済活動とのバランスをどう取るか

すでに欧州の各都市では、政府の行動制限に対する反対のデモなどが発生し、一部は暴徒化しているようだ。人々がストレスを爆発させ、社会が不安定化すれば、人々は政府による感染対策に耳を貸さなくなってしまう。そうなっては元も子もない。可能な限り社会経済活動を回し人々の不安や不満を和らげる必要性を、市民生活に近い立場の地方政府ほど感じているのだろう。

もちろん、中央政府も社会経済活動を軽視しているわけではない。そうであるからこそ、非常事態を宣言して都市封鎖を実施するにせよ、第1波のときのような強い行動制限を課していないし、課せていないのが実情だ。感染拡大に歯止めがかからないからこそ、社会経済活動とのバランスをどうとるかという本質的な課題に、欧州各国は再度直面していると言えるだろう。