第1波に比べて感染者数が爆発的に増えている理由
欧州では新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない。日本では1日当たりの新規感染者数が600人程度で横ばいからやや上向きとなって推移している程度だが、欧州の各国では感染が文字通り爆発している。第1波で感染の抑制に成功したドイツや夏場に感染をコントロールできたイタリアは1日当たりの感染者数が1万人を超えており、フランスは実に3万人に達した。
先行して感染が爆発したスペインは1万人を再び下回り、感染対策で独自路線を歩むスウェーデンも感染の増加がピークアウトしつつあるが、再び拡大する可能性は否定できない。第1波に比べて感染者数が爆発的に増えている理由として、そもそもの新型コロナウイルスの感染が収束していないことに加え、各国が感染対策の一環としていわゆるPCR検査の回数を増やしていることが指摘されている。
幸いなことに、新型コロナウイルスによる関連死者数は各国とも第1波と比べ物にならないくらいに少ない。感染者の中心が重篤化しにくい若年層であることや、第1波の頃に比べると治療体制が整っていることなどが背景にあるようだ。とはいえ冬季にかけて新型コロナが収束する展望は描けず、他の感染症との同時流行も懸念されるため、各国は感染対策の強化に乗り出している。
例えばスペイン政府は10月25日、全土に非常事態を宣言した。前回6月までの非常事態に比べると、夜間を除けば外出も許されるなど、緩い規制にとどまっている。感染対策を強化するとしても、社会経済活動への悪影響を考慮すると、第1波のときのような強い規制を実施することは容易でない。緩やかな都市封鎖(ロックダウン)という戦術が、欧州ではコンセンサスになっているようだ。
景気と雇用は大打撃、ロックダウンは「劇薬」でしかない
4~6月期の欧州連合(EU)の実質GDPは前期比11.4%減と、各国がロックダウンを行った結果が色濃く出るかたちで、記録的なマイナス成長になった。また各国政府が手厚い雇用支援策を実施したにもかかわらず、4~6月期の失業者は1~3月期に比べて100万人を超える増加となるなど、雇用情勢は急激に悪化した。
10月30日に発表された7~9月期の実質GDPは、都市封鎖に伴う行動制限が緩和されたことに伴い、前期比12.1%増の高成長になった。一方、雇用はそもそも景気に遅れて回復するため、残念ながら改善はあまり進んでいない。このまま順調に景気が回復することが期待されたが、今般の感染対策の強化を受けて、10~12月期の景気は回復が急減速せざるを得ないと考えられる。
7~9月期に実現した景気回復は、政府と中銀による精いっぱいの対策を反映した結果でもある。第1波のときのような強い行動制限をとれば、当然だが景気は二番底に向かう。雇用もさらなる減少を余儀なくされ、社会経済は壊滅的な打撃を受ける。政府と中銀がいくら対策を強化しても、社会経済そのものが動かなければ「焼け石に水」であり、資源の浪費にしかならない。
第1波では感染対策を最優先した欧州の各国だが、今般の感染局面では社会経済活動に対する配慮が欠かせなくなっている。ロックダウンという手段は短期的な効果は望めるものの、やはり持続性に欠ける「劇薬」であった。それを体力が十分に回復していない患者に再び投与することはあまりに危険であるという判断が、欧州で下されたのだと理解していいだろう。