「いい質問」が周囲をケアするコミュニケーションになる
たとえば、職場でいじめられているかもしれないと感じている相手がいたとしましょう。「最近同僚から仲間はずれにされているんです。みんなから遠ざけられている気がします」という相手に対して、「違うよ。そんなことはない」と言ったところで、相手には通じないでしょう。仲間はずれにされているというのはその人の実感であり、嘘ではないのですから、否定したところで、会話は平行線をたどるだけです。
そういうときには、「じゃあ、実際に、誰かにいじわるされたり、無視されたり、ランチに誘われなかったりしたの?」と質問してみるのが有効です。そうすると、たいていは「いや、そういうわけではないけれど」といった答えがかえってくるものです。
他にも「私だけ厳しく指導されている」という相談を受けたとき、「その上司は、あなただけを攻撃しているの?」と聞いてみると、実際には誰にでも横柄で暴力的な態度で接していて、相談者だけを厳しく指導しているのではないこともしばしばあります。
悩みや迷いがあって、不調を抱えている人の多くは、物事をネガティブに思い込みがちです。ですから、まずはそういうやりとりのなかで、自分ではそう思っているけれども、事実として何かやられたり、言われたわけではないというのがわかってくる、事実と事実ではないことの区別がついてくる、自分が一人で悪い方向に考えすぎていることに気づくことが大切なのです。
自分が知りたいことを直接「疑問」として相手にぶつけるのではなく、いい質問を上手に投げかけ、相手がそれに答えるうちに、相手自身の状況、よくないところ、気づいていないことを指摘されなくとも、自分で気づかせる――。そうした配慮や姿勢が、周囲をケアするコミュニケーションにつながるのです。