「話を聞く」だけで9割の人は楽になる

でも、いざ声をかけるとなると、なかなか難しいもの。何をどう話せばいいのか、より悪化させてしまったらどうしよう……という不安がよぎるのも無理はありません。

真面目で面倒見のいい人ほど、「部下のストレスの原因を解決しないといけない」「同僚のメンタルヘルス不調を治す方法はないだろうか」と考え込んでしまい、声がかけられないでいる傾向があります。

そうではなく、あなたが気づいていること、何か助けになることができないかと思っていることを伝えるだけでいいのです。大切なのは、話を聞いてあげること、必要に応じて医師やカウンセラー等の専門家につなぐことなのです。

状況が深刻ではないケースであれば、相手は「話を聞いてほしい」「自分の辛さをわかってほしい」と思っているケースがほとんどです。しっかりと話を聞いてくれる人がいるだけで、約9割の人は気持ちが楽になりますから、あなたは聞くだけでいいのです。

私もたくさんの産業医面談をしていますが、実際、相談にこられる人はすでにストレスの原因を9割方わかっています。ただ辛さをわかって欲しい、または、どう対処したらいいのか自分一人ではその方法を見出せなくて困っているから、相談に来るのです。

アドバイスではなく、「質問」をする

人は言っても変わりません。だから、産業医の私はアドバイスはせず、相手本人の気づきを促す「聞く」を実践しています。

アドバイスの代わりに、相手のためになる効果的な「質問」をしています。自分の知りたいことを聞くことが「疑問」で、相手のためになることを聞くのが「質問」だと私は考えています。

質問は相手の視点を変え、相手自身が気づくきっかけになることが多いため、聞き上手な人は、すでに相手にも自分もわかっていることを、再認識してもらうために、あえて聞くこともあります。

悩みや迷いのある人には、目の前のことしか見えていなかったり、事実と想像がごちゃ混ぜになっている場合がよくあります。もし相手の視野が狭くなっている、あるいは近視眼的になっていると思われたら、少し視点を変えて俯瞰的な視野が得られるような質問を考えましょう。また、相手の勝手な思い込みや想像していることが、実際に起きていることと違うということに気づくような質問も有効でしょう。